今、注目を集める『エイブル・アート』って知っていますか?

2019.02.25

今、注目を集める『エイブル・アート』って知っていますか?

福岡市内を歩くと、建物が並ぶ壁面に独創的なイラストを目にしたり、天神地下街で大きなアイアンモニュメントを見かけたりと、何気なく「エイブル・アート」に触れていることがあります。
それらのアート作品を生み出したのは、実は、障がいのある方たち。
そう、「エイブル・アート」とは障がい者芸術を捉え直す運動のことで、障がい者芸術のすばらしさを知らしめ、障がい者の地位を高めることと同時に、誰も排除されない社会を目指すことなんです。彼らの独特な色づかいやタッチが作品として高く評価され多くの人を魅了しています。
アートや音楽を創作するアーティスト集団として全国的に注目を集めている、福岡に拠点を置く障がい者福祉作業所の「工房まる」と「アトリエブラヴォ」からお話をお聞きしました。

パーティ会場を彩る工房まるが手がけたウォールアート

「工房まる」から多彩な個性が開花する

福岡市内に3ヶ所の福祉作業所を運営する「工房まる」。障がい者を被写体にシャッターを切っていたカメラマンの吉田修一さんが、さまざまな障がいを持つ人の個性を発揮する場を作りたいという思いで1997年に立ち上げました。
ここでは、メンバーによる絵画や陶芸、詩や音楽といった創作活動が行なわれています。開設当初、作品は近隣のバザーや手売りで販売されていましたが、自由な色使いや伸びやかな表現が高く評価され、年々販売先が増加。全国各地で作品が展示されるほどになりました。メンバーの中には、大手アパレル会社からオファーを受け、Tシャツのデザインを手がけたという人物も。

毎年高い人気を集めているのが、メンバーが描いた作品によるカレンダー。2019年は「月をめくりめぐるmaruの動物園」と題して、メンバー37人が描き下ろしたユニークな動物たちと出会えるカレンダーを発表しました。2/1(金)まで、福岡市箱崎の書店ブックスキューブリックにて、「maruカレンダー2019」原画展を開催しています。

工房まるで制作しているmaruカレンダー

「工房まる」のキーパーソン 樋口さん

樋口さん「工房まる」の前にて。

現在、「工房まる」の代表理事を務めるのが樋口龍二さんです。樋口さんと「まる」の出会いは、開設から翌年のこと。実は樋口さん、地元久留米でバンドを組んで、プロを目指していました。ある時、音楽仲間でもあった吉田さんに会いに、「工房まる」へ遊びに行くことに。そこで運命が変わります。
「いざ障がい者の方と対面すると、何て声かけていいか全然わからない。変に緊張しちゃったんですよね」と樋口さん。そんな時に吉田さんからギターを渡され、流れでギターを弾くことに。すると不思議なことに、さっきまでが嘘のよう。リズムに合わせてその場にいたメンバーが一緒に動いたり、音色によって感情を表現したり、音楽が媒介となって通じ合えることができたのです。
「正直、自分の変化に驚きました。と同時に、こういうことが社会でも起こっているのかもしれないと思ったんです」。私たちは、知らぬ間にメディアや教育などによって作られた"障がい者"というフィルターをかけてしまっているのではないか、それを外す手段として音楽やアートがあるのだろう、と樋口さんはハッとします。この大きな気づきが、樋口さんを「工房まる」へと導きました。以来、20年以上、ここでの活動を牽引しています。

笑顔あふれる「工房まる」での作業の様子。メンバーも職員のみなさんが共に楽しそうな、のびのびとした雰囲気です。

「アトリエブラヴォ」が手がける、環境を変えたウォールアート

福岡市内の大名や今泉の壁面に描かれた、カラフルでポップ、見ているだけで楽しくなるようなウォールアートをご存知ですか?これらは、福岡市博多区の「障害福祉サービス事業所“JOY倶楽部”」に所属するアーティスト集団「アトリエブラヴォ」が手がけたものです。
“JOY倶楽部”が誕生したのは2002年のこと。スタートさせたのはある歯科医院の院長でした。当時、その医院は障がい者を専門に診察していたのです。そこに訪れる患者の様子をみて、アートや音楽を介すると、彼らがもっと社会と繋がることができるのではないか、という思いで立ち上げました。以来、障がいを持つ人たちが集まって、思い思いに絵を描いたり、陶芸作品を手がけたりして、「アトリエブラヴォ」が始まりました。
彼らの作品は見る人を魅了し、しだいに活動の幅を広げていきます。そうした中、福岡のローカルテレビ局の番組企画で福岡市内の通りの壁面に彼らが絵を描きました。これにより、街中にポップでカラフルなウォールアートが出現。通りが一気に明るくなったと好評を博しました。2008年には、同番組の企画で、ニューヨークでもウォールペイントを手がけています。
その後も、街をあげたアート活動である“大名アートウォーク”にて、大名の壁面に絵を描いたり、今泉の自治協議会から依頼を受けて今泉の壁面を手がけたり、と彼らのキャンパスはあちこちへと広がりました。中でも、今泉でウォールアートを施した場所は、壁にはスプレーで落書きされ、夜になると暗く、窃盗などの犯罪が多かった場所。しかし、このウォールアートの完成後、犯罪率が減ったそう。明るくポップで楽しい雰囲気の絵が描かれたことで、街の雰囲気を一変させたのです。他にも、古賀市の図書館や、那珂川町に新設された学童の施設、最近では原鶴温泉の巨大な壁画を完成させるなど、その活動は広がるばかり。街を歩いて心躍るアートを見かけたら、そこに「アトリエブラヴォ」のサインがないかぜひチェックしてみてください!目にすると、きっと、あなたの気持ちを一瞬で明るくしてくれるはず。

天神地区壁画

福岡市動物園

「だんだんボックス」が届ける、日常使いのアート

ここで紹介するのは、アートをより身近に感じてもらえる商品です。一般社団法人「だんだんボックス」では、色彩豊かなのびのびとした絵が描かれたダンボール箱を販売中。使用するイラストは、障がいを持ちながら絵の才能がある人たちが手がけています。「工房まる」や「JOY倶楽部」のアーティストたちも参加していますよ。
「だんだんボックス」の活動は、芸術表現によって障がい者の社会参加を促す実践的な試みとして始まりました。ちなみにその名前は、段ボールの“だん”と、西日本の一部の地域で使われる“ありがとう”を意味する方言の“だんだん”をかけて名付けたそう。アーティストたちの作品がダンボールの絵となって、人から人の手に渡る。そこに“ありがとう”の気持ちを乗せて運んでいく。そんな思いでこのプロジェクトは歩みを続けています。

ダンボールは小から特大サイズの4〜8種類を用意しています。購入は、福岡市内の大型の郵便局や、ホームページから。

だんだんボックスの活動は、ダンボールのみならず、自動販売機やバスのラッピング、博多港のコンテナなどにも広がっています。

エイブル・アートからはじまる、新しい世界の見方

エイブル・アートの話をお聞きすると、そこには共通する話がありました。近年「障がい者が手がけるアート」が注目を集める中、アートも音楽も、そうした活動は、彼ら自身の個性を表現する“手段”のひとつだということです。彼らの作品を見ていると、自分自身の中にも新しい世界の見方や可能性を感じることができます。そうして何かひとつでも感じることが、障がいの有無に関わらず誰もが自分らしく生きる社会の実現に近づいていくのかもしれません。
街角のアートをはじめ、Tシャツやカレンダー、段ボールといった身近なグッズで、彼らの作品から“感じてみる”こと。まずは、そこからはじめてみませんか?

工房まるonline shop

http://shop.maruworks.org/

「コピーセンター絆結」をご存知ですか?

西部ガスが本社を構える、博多区千代のパピヨン24ビル地下一階。こちらに店を構えるのが、「コピーセンター絆結」です。いわゆる障がい者、難病患者といわれる人たちが印刷の手助けをしてくれるスペース。ダイレクトメール等の発送物の封入や発送、印刷物の企画やデザインなどが可能です。オフィスワークの強い味方としてご利用ください。

コピーセンター絆結 / 印刷物の企画やデザインなどオフィスワークの強い味方

https://copycenter-banyu.jp/