作り手の情熱が切り開く"進化する九州ワイン"とは!?

2019.03.15

作り手の情熱が切り開く"進化する九州ワイン"とは!?

黒木 昭博さん

今回は、九州で生まれたワインについてご紹介します。今まで「日本ワイン」と言えば長野や山梨のイメージが強く、九州は一歩出遅れた印象がありました。しかし、ここ最近では九州ワインが大きな進化を遂げているとか。

そもそも雨や台風が多く、ワインに適したブドウが育ちにくい九州でなぜ美味なるワインが生まれ続けているのでしょうか?それは、平成に入った頃から各地で志あるワイナリーが地元農家と土壌の改善から品種の選定まで熱心に取り組み、その努力がようやく花開いた成果なのです。今も大幅な進化を遂げている九州ワインは、国内コンクールで多数の賞を獲得し、海外のマスコミに取り上げられる機会も増えています。

今回は進化した九州ワインについて、日本ソムリエ協会認定シニア・ソムリエであり、大濠公園で約70年続く老舗レストラン「花の木」の支配人兼シェフソムリエの黒木 昭博さんにお話を伺います。

お土産ワインから、急成長を遂げた九州ワイン

シラー果実

「私がソムリエになりたての25年前、九州のワインといえば、正直甘いだけのご当地ワインという印象でした。でも、2001年くらいから大分でワイン造りを行う安心院葡萄酒工房さんのスパークリングワインに注目が集まったんです」

安心院はもともと昼夜の寒暖差があり、ブドウ作りに適した土地です。さらに、ブドウを早く収穫できるスパークリングワインをメインにしたことで、台風シーズンもうまく避けることができたのです。スパークリングワインを安定供給できるようになった結果、安心院葡萄工房さんの知名度は上がり、他のワインの開発も進められました。

「2010年初頭くらいまでは安心院葡萄工房さんのシャルドネだけ他のワイナリーさんに比べて段違いでした。ブドウ本来の味をしっかりと感じられたんです。でも、3、4年前に熊本ワインさんのシャルドネを飲んでみると、以前に比べてブドウの味がぎゅっと詰まっていて驚きました。他のワイナリーも年々味わいが進化しているようです。おそらくブドウの作り込み方が進化したんですね」

実は、九州のワイナリーはほとんどが自社農園ではなく、契約農家でブドウを栽培しています。その多くが食用ブドウの栽培も手がけており、ワイン品種のブドウについてはまだまだ知識が不足している状態でした。それが、ワイナリーと一緒に作るうちに段々と足並みが揃い、味が向上していったのだと考えられます。

完成形に近づいた白、未知数の赤

シラーグラス

今、九州ワインで評価が高いのはシャルドネ品種をはじめとする白ワインです。一口に九州ワインの白は甘めと言われていますが、九州の端から端は気候も全然違うので、甘みのニュアンスも異なります。

「例えば、一番南側にある宮崎県の都農ワインさんは、シャルドネもトロピカルフルーツのような華やかさがあります。大分の安心院葡萄工房さんは少し穏やかな味わいですね。シャルドネ品種を使った白ワインは全体的にどんどん洗練されていますが、それ以外はまだまだトライ&エラーの段階ですね」

その品質を確立しつつある白ワインに比べ、まだ発展途上と言えるのが、九州の土壌では深みを出すのが難しいとされる赤ワインです。しかし、その中で密かに黒木さんが注目しているのが「ビジュ・ノワール」という赤ワインの品種です。「日本産のブドウと、温暖な気候を持つ外国産のブドウを掛け合わせて作られた品種で、安心院葡萄工房さんや都農ワインさんが挑戦されています。うまくいけば軽やかで華やかな"九州らしい赤"が誕生しそうだなと期待しています。どっしりとしたワインは寒冷な山梨や長野にまかせてしまって、華やかな九州の赤ワインが完成すれば、もっと面白くなりそうですね」

レストラン花の木

〒810-0051 福岡県福岡市中央区大濠公園1-3
TEL:092-751-3340
https://hananoki-f.jp

九州ワインの古株、安心院葡萄酒工房のスパークリングとシャルドネ

安心院ワイナリー全景

安心院スパークリングワイン、安心院ワイン.png

黒木さんが「今や日本ワインの中でも『安心院といえば、スパークリングワインとシャルドネ品種』と言われるほど有名です」とオススメしてくれたのが、「安心院葡萄酒工房」です。

「いいちこ」などの焼酎や日本酒を製造している三和酒類株式会社が1971年にワイン部門をスタートし、その後、2001年に「安心院葡萄酒工房」として独立しました。安心院町で収穫されたブドウのみをワインに使用。自社農園でぶどうの試験栽培も行なっており、珍しい品種のワインにも挑戦しています。

「安心院葡萄酒工房」の名前を最初に知らしめたのが、「安心院スパークリングワイン」です。発泡性ワインの作り方はさまざまありますが、「安心院スパークリングワイン」は炭酸ガスを注入する方式と違って、瓶の中で二次発酵をさせた昔ながらのシャンパン方式で製造されています。二次発酵後、一年以上の熟成を行いオリを取り除くため一つ一つ瓶を回すなど、複雑な工程をしっかりと管理しているのが味の決め手。きめ細かいなめらかなな泡立ちと、キリッとした奥深い味わいで有名です。筆者も実際飲んでみましたが、クリーミーなきめ細かい泡が口の中に広がり、お値段以上の味わいでした。

もう一つ、特筆すべきはシャルドネ品種を使った白ワインです。黒木さんが「イモリ谷のものが特にユニークです」と選んでくれた一本は、まるでイモリのような形をした谷あいで育てられたシャルドネで作られています。イモリ谷で収穫されたブドウで造るワインはミネラル感のある味わいに仕上がり、シャルドネ品種特有のフルーティーな香りにキリッとした酸味が加わっているのが魅力です。産地が違えば、同じ安心院でも白ワインの味わいがこんなに違うのかと驚くはずです。

「どのワインも一つ一つの工程を積み重ね、丁寧に作ることをモットーにしています」と教えてくれた「安心院葡萄酒工房」の岩下さん。時には焼酎や日本酒の知識を活かし、アグレッシブに開発する姿勢は、これからの九州ワインの可能性を示してくれているようです。

三和酒類株式会社 安心院葡萄酒工房

〒872-0521 大分県宇佐市安心院町下毛798(家族旅行村隣接)
TEL:0978-34-2210
http://www.ajimu-winery.co.jp

九州のワイン造りのさきがけ"都農ワイナリー"

ブドウ園

シラーボトル

雨が多くブドウ栽培には適さないと言われてきた宮崎。実際に他のブドウ産地の5倍以上の降雨量、しかも収穫時期に台風が襲来する土地です。そんな土地でも自社管理畑で独自の赤ワイン製造にチャレンジしているのが「都農ワイナリー」です。

「ワインは水を一滴も使わないお酒です。だからこそ、その味わいはブドウの品質で決まります。そして、その品質を左右するのが天候と土壌、そして作り手の思想なんです。ワインはまさにその土地の風土を活かした"地酒"なんですよ。私たちは、宮崎の豊かな日照のもと地元産のブドウのみを使い、土造りや地力を維持するため牧草で地表面を保護する草生栽培を取り入れるなど、独自の技術を開発しました」と「都農ワイナリー」の赤尾さんが教えてくれました。

"九州の赤"として、黒木さんが期待している赤ワインの「シラープライベートリザーブ」は、骨太さを残しつつ、エレガントで優しい味わいに仕上がっています。シラー品種で作ったワインは、スパイシーでコクがあり、味わい深いフルボディのワインが一般的ですが、都農の土壌はヨーロッパと比べてミネラル分が低く、コクのあるブドウが作りにくい環境でした。しかし、15年の試行錯誤と努力の結果、海外産にも負けない個性豊かな赤ワインが生まれたのです。
不可能にこそ挑戦する都農ワインもまた、九州ワインの新しい時代を象徴しているようです。

都農ワイン

〒889-1201 宮崎県児湯郡都農町大字川北14609-20
TEL:0983-25-5501
https://tsunowine.com

福岡で九州ワインを飲むならここがおすすめ

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今からが楽しみな「九州ワイン」ですが、生産ロットが少なく、なかなか手に入らないのも現状です。そこで、黒木さんが紹介してくださったのが福岡市内の天神にある「酒商 菅原」というお店です。
こちらは、「日本の造り手を応援したい」と国産のお酒だけを取り扱っている酒屋です。ワインの取り扱いにも力を入れており、店内に並ぶ商品は実際にワイナリーや畑へ出向いて、生産者に直接会って選別されています。九州ワインも、先述した都農ワイナリーや安心院葡萄酒工房のワインをはじめ数多くそろえています。中には、生産数が200本ほどの希少なワインを置いていることもあるそうです。

オーナーの土師さんによると「今は、日本ワインの味が劇的に飛躍しています。高級なフランスワインを長年飲んでいる方に飲んでもらうと『これ本当に日本ワイン?』と驚かれるくらいです。それはやはり、ワイナリーの皆さんが世界を視野に入れ、土地の持ち味を生かして勝負しているからにほかなりません。そんなワイナリーの情熱や畑の風景が伝わると、より一層美味しく感じられますね。」
店内の角打スペースでは立ち飲みで1杯500円で日本ワインが楽しめるとともに、ワイナリーのお話もじっくりお聞きできますよ。ちょっとお邪魔してみてはいかがでしょうか?

酒商 菅原

〒810-0004 福岡市中央区渡辺通5-24-30
TEL:092-712-2366
http://sakasyo-sugawara.jp