2019.12.12
コウケンテツ×食と道具
"金沢で見つけた、白のオーバル皿編"
料理研究家として食に携わるコウケンテツさんが、仕事を超えて惚れ込んだ"道具"たち。その向こうに見える作り手の思いとともにお届けします。
コウケンテツ
出身は大阪府、現在は東京都在住。お母様である韓国料理研究家、李映林さんのもとでアシスタントを務めた後、料理研究家として独立。韓国料理、和食、イタリアンと幅広いジャンルで活躍中。福岡ではRKBの料理番組「たべごころ」でもおなじみ。
最初の一枚に買うべき
岡田直人さんのオーバル皿
毎日の料理が楽しくなってきたら、次にこだわりたくなるのが器です。特に、作り手の個性が光る作品は憧れの存在。でも、とんがったデザインの食器って、使いこなす楽しみもあるけど、日常の食卓に相いれない場合が多いですよね。
そこで、僕が一番最初のご指名買いとしてオススメしているのが、岡田直人さんのオーバル皿。岡田さんが作る器は白一色だけなのですが、その白が素敵なんです。温もりがありつつ、洗練された雰囲気がある。白いお皿ってね、よく見るといろんな表情があるんですよ。ツヤがあるとドレッシーな印象になるし、マットなものだとほっこり感が出る。岡田さんはその間の絶妙な風合い表現されているんです。だから、渾身の一品を盛ることもできるし、チャーハンや焼きそばを盛ってもサマになる。そこまでの振り幅を持つ器ってなかなか無いものです。
そうそう、デザインも言わずもがなですね。お皿のフチ、いわゆるリムの幅や角度にセンスが表れている。中でも、楕円形のオーバル皿は、持っていて間違いない逸品です。サラダやパスタはもちろん、魚を一尾のっけてもしっくりと馴染む。丸皿だと魚を盛った時に上下が空いてしまうので、バランスを取るのが難しいんですよね。狭いちゃぶ台でも向き合って2枚並べることができますし、食器棚の中でも場所を取らない。実は日本の生活スタイルにぴったりなんです。
それに、料理を選ばずに使えるということは、徐々に自分の色になってくれるということでもあります。作り手の感性が存分に発揮されているんですけど、使い手に委ねてくれる余地があるというかね。誰でも気軽に作れておいしいレシピをご紹介したいと思っている僕にとって、どこかシンパシーを感じる存在でもあるんです。
岡田さんの器をもし贈り物にするならどんな方に贈りたいですか? 岡田さんの白い器は、幅広い年代の方に馴染むと思います。若い世代のカップルや子どもさんが独り立ちして生活がちょっと落ち着いたご夫婦にもいかがでしょう。「新しい生活が始まることだし、二人で料理に挑戦しようかな」なんてご家庭に喜んでもらえるんじゃないかな。
自分用に購入するならね、次は大皿が欲しいです。以前デンマークのご家庭を訪ねた時、テーブルに大皿をドンと置いて、お皿を回して料理をシェアしていたんですよ。「おじいちゃん、ちょっとそれとって」「お母さん、このおかず盛って」なんてね、おしゃべりをしながら食事を楽しんでいる光景がとっても素敵だったんですよ。岡田さんの器が持つホッとした雰囲気なら、こんな温かい会話が生まれそうな気がします。
「実は一度、京都で開催されていた岡田さんの展示会に伺ったことがあるんですよ。」とコウさん。直接お話ししたのはほんの少しの時間だったそうですが、それでも「気さくでやわらか〜い空気感の持ち主。まさに岡田さんが作る器そのもの」という印象を抱いたそうです。
そんな岡田さんは、現在石川県能美市にある工房で日々制作をされています。金沢といえば、華やかな色絵の「九谷焼」で有名な土地ですが、そこで生まれた岡田さんの作風が白一色というのも実に興味深いお話。
一体、作品にはどんな思いが込められているのでしょうか?
「僕は小さな頃からモノづくりが好きで、短大時代に窯業の訓練校に通うことにしたんです。日本は食文化が発達しているので、器を作る陶芸家という職業は成立するし、憧れもあったんですね。訓練校を卒業した後は、最初から最後まで一貫して器を制作できる『九谷青窯』に10年ほど勤めました。その間に染付や色絵もたくさんやってきたんですけど、僕にはあまり馴染まなかった。色を足したり引いたりせず、そのまま器の形を表現したいと思うようになったんです。
それに白はなんでも受け止めてくれる色というイメージがあって、個人的に好きな色でもあったんですね」
確かに岡田さんのお皿は、和食も洋食もさりげなく引き立ててくれる魅力を備えています。しかも、実際に料理を盛った時、食べる時、片付けて洗う時まで、まるで昔から使ってきた食器のように手に馴染むのです。
「食器って使ってなんぼだと思うんですよ。僕にとっては作品として自分を表現するよりも、扱いやすいとか、いろんな場面に使えるとか、清潔感があるとか、そういう使い勝手のよさが一番大事。だから、制作も『使える器ってどんな器なんだろう』という視点からスタートしているんです」
岡田さんは器を作った後も実際に使ってみたり、奥様やお客さまの意見を参考にしたりと少しずつ改良を加えているそうです。
「使う人の気持ちになって作る、というと聞こえはいいですが、使いにくいものを作るのがストレスになるんですよ。使いにくいなと思ったら自分が嫌になっちゃう。それにフォルムが美しいというだけでは面白くないでしょう?例えば、手に持った時にどこの指に当たるかとか、触り心地とか、洗いやすいよう指が引っかかるようにしようとか、全て含めた上でのデザインを工夫しています」
コウさんが教えてくれたオーバル皿も、実際触ってみるとリムの部分やサイズまで実用性に沿ってデザインされているのが分かります。それに加えて、この温かい風合い自体も日常の器として重要な役割を果たしているのです。
「フランスやオランダの古いオーバル皿をモチーフにしているのですが、そのままだと毎日使うには強度が少し頼りない。素材を強いものにして、使い込めるように耐久性を持たせています。デザインはサイズ感、手に取った時の重さなどで和と洋の中間のような表現を目指しています。日本の食卓って、きっちりとした洋食器は合わせにくい気がして、手作りのニュアンスが残っている方が相性がいいのかなと思っています。あとはやっぱり衛生的で、シンプルで多様な使い方ができることも重要。"一器一用"というのは僕にとってはあり得ないことで、やっぱり一つの器を見て最低でも3通りくらいは使い方を想像できるようなものを作りたいですね」
独立されて約20年という岡田さん。今では料理人にもファンが多く、二ヶ月に一度開催する個展で全国を飛び回っているそう。10月には熊本で九州初の個展も開催されました。
「気がつけば20年ですが、シンプルな器だからこそ見えてくるものがたくさんあるし、使ってくれる方との会話の中にもアイデアが隠れています。そういう発見ができることがとても嬉しいんです。自分の中で伸びしろを感じる時があって、それがとても幸せですね」
コウさん曰く、「器選びのコツはお皿を見て触った時、自分だったらこんな場面でこんな料理を盛ろうと想像できたら、そのお皿はきっと"買い"だと思います」
岡田さんの白いオーバル皿は、これから日常で繰り広げられる団欒を映し出してくれるような、優しいイメージに満ち溢れているようです。
岡田直人さんの展示会情報はInstagramでチェックを。
Instagram:https://www.instagram.com/naoto416/?hl=ja