コウケンテツ×福岡の食と人 "食育から介護まで、毎日をどう楽しむか 人生100年時代における食との向き合い方とは?"(前編)

2020.11.27

コウケンテツ×福岡の食と人
"食育から介護まで、毎日をどう楽しむか
人生100年時代における食との向き合い方とは?"(前編)

私たちにとって"食べること"は、切っても切り離せないほど身近な営みです。
だからこそ、食はその土地の文化を知る鍵であり、社会を写す鏡であり、未来を示す道標にもなりうるのではないでしょうか。
生活スタイルが多様化している現代、少し立ち止まってこの何気ない営みを見つめ直してみれば、新たな発見に出会えるかもしれません。

今回お届けするのは、食に関わる人々から、"福岡の今とこれから"を学ぶグループトーク。案内役には、レシピを通して食卓の楽しさを伝える料理研究家のコウケンテツさんをお迎えして、じっくりと語り合っていただきました。

左から、コウケンテツさん、八仙閣 塚本光穂さん、医療法人福寿会ハッピーランド 佐藤京子さん、ドクターフーヅ・火と人 満屋香織さん。
参加者同士のクロストークも弾み、何か新しいコラボレーションが生まれそうな予感も...。

社員食堂で毎日の健康管理 働く世代を支える「火と人」

少子高齢化が進む現在、食に関わるシーンも年代や性別、家族構成などさまざまな要素が絡み合い多様化が進んでいます。特に、働く世代にとっては忙しい日々の健康管理、いずれ向き合わなければならない介護問題など、不安のタネもあちこちに...。
そこで、社員食堂「火と人」でメニュー開発を担当している「ドクターフーヅ」の満屋香織さん、中華料理の人気店「八仙閣」のマネジメントを担う塚本光穂さん、介護老人保健施設「ハッピーランド」でケアマネージャーを務める佐藤京子さんをお招きしてお話をお聞きします。食の専門家として、「人生100年時代の食」にどんなアドバイスをいただけるのでしょうか。

コウケンテツさん

コウケンテツ

出身は大阪府、現在は東京都在住。お母様である韓国料理研究家、李映林さんのもとでアシスタントを務めた後、料理研究家として独立。韓国料理、和食、イタリアンと幅広いジャンルで活躍中。福岡ではRKBの料理番組「たべごころ」(https://rkb.jp/tabegocoro/program/)でもおなじみ。9月に初のエッセイ本「本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ」(ぴあ)を出版。

YouTubeチャンネルはこちら
https://www.youtube.com/channel/UC3p5OTQsMEnmZktWUkw_Y0A

火と人

西部ガスの社員食堂としてオープン。管理栄養士常駐、有名レストラン「KOJIMA」のオーナーシェフ小島孔典氏によるメニュー監修など画期的なサービスが注目されている。店内には西部ガスグループの商品PRスペース、コワーキング的な空間なども設置され、単なる食事の場ではない点も特徴。
第4回「健康な食事・食環境」認証制度においてスマートミール定食が外食部門において九州初の「3つ星」認証。
満屋 香織(みつや かおり)
管理栄養士・調理師 課長

満屋さんの記事はこちらにも
https://www.saibugasgroup.jp/new_lifelab/318.html

ドクターフーヅ

1983年に設立され、鹿児島および福岡両県の病院・施設内給食、西部ガス社食「火と人」を運営。管理栄養士と調理師からなるチームで糖尿食をはじめとする治療食や、高齢の方への軟らか食など、個々に合わせた食事を提供している。
満屋 香織(みつや かおり)
管理栄養士・調理師 課長

八仙閣

福岡で50年以上続く中華料理店。本店、レストラン6店舗、日本料理 銀香梅、脇屋友詞プロデュース『蓮双庭』を運営。ビアガーデン、中華コース宅配、テイクアウト等、時代に沿って多角的な展開を続けている。
塚本 光穂(つかもと みほ)
レストラン部 今宿店 店長 役職副部長 店舗マネジメント
https://www.8000.co.jp/

医療法人 福寿会 介護老人保健施設ハッピーランド

大牟田市の介護老人保健施設で、介護保険開始時から一般入所、ショートステイ、通所リハビリテーション、居宅介護支援事業を展開 地域の方々の介護予防と介護者のサポートにも力を入れている。
佐藤京子(さとうきょうこ)
居宅介護支援事業所管理者、ケアマネージャー、看護師
http://www.fukuju.or.jp/

この日の会場となったのは、2020年7月にオープンした「火と人」。
一見おしゃれなカフェですが、なんとこちらは西部ガスグループの社員食堂なんです。 ※一般のお客さまもご利用頂けます。
フレンチの名店「KOJIMA」のオーナーシェフ小島孔典氏監修のメニューに加え、コウさんが出演する番組「たべごころ」で紹介した料理も週替わりで登場。さらに日本栄養改善学会などに認定された健康づくりのための食事「スマートミール」も味わえます。全国でも「スマートミール」の認定を受けた店舗はまだまだ少なく、外食部門において九州で最高位の「三ツ星」を獲得したのは「火と人」が初なんですって。カラダが気になりつつも忙しい社会人にとって、まさに心強い存在の「火と人」。座談会参加者の皆さんも集合するなり、興味津々の様子でした。
早速、メニュー開発に携わる満屋香織さんから内部を紹介いただきながら、座談会のスタートです。

―ドクターフーヅ・火と人 満屋香織さん(以下、満屋): まずは入り口から。この店舗は地下なので窓がありませんが、自然光のような光が注ぐ明るい食堂にデザインされています。

―コウケンテツさん(以下、コウ): 地下なのにすごく開放感がありますね。

―満屋: 家々が連なり明るいキッチンを囲む"みんなの食卓"のようなイメージです。屋根と屋根の間から木漏れ日がさしている雰囲気で作られているんですよ。中央のライブキッチンでオーダーして料理を受け取るんです。さらに「食」のイベントでは、このライブキッチンがステージになるんですよ。
ランチの後はカフェも楽しめるようデザートも用意しています。

―八仙閣 塚本光穂さん(以下、塚本): 会計はどんなシステムなんですか?

―満屋: オートレジといって、食器の裏にタグがついてて価格が分かるようになっているんです。レシートには栄養素やカロリーも表示されますよ。

―コウ: テーブルには調味料を置いていないんですね。

―満屋: そうなんです。実はこの食環境も「スマートミール」の一部なんですよ。かけ過ぎ防止のため、ドレッシングなどの調味料はカウンターに置いています。少量ずつしか出ない容器や減塩醤油、ノンオイルドレッシングなどもありますよ。

―医療法人福寿会ハッピーランド 佐藤京子さん(以下、佐藤): こちらのドアは何の部屋なんですか?

―満屋: ここは「食事サポート室」です。管理栄養士が常駐していて、食事の問い合わせに答えてくれるんです。体組成が測定できる装置もあるんですよ。

―コウ: これは心強いですよね。こっちにも行列ができちゃうかも。
お客さんはどんな方が多いんですか?

―満屋: 社員の方はもちろんですが、地元の方などもたくさんいらっしゃいますね。西部ガスグループは食関連の企業がたくさんあるので、協力して面白い展開をして行けたらなぁと思っています。

―コウ: 今後の動きも楽しみですね。

入り口すぐには西部ガスグループの商品を購入することができるショップを併設。前回登場してくれたマルタイ、福岡中央魚市場、今回参加の八仙閣の商品も並ぶ。こちらも食卓の強い味方になってくれそう。

家庭のご飯の1コマに外食を がんばりすぎない食生活へ

―コウ: 僕の仕事は、料理研究家として誰でもおいしくできるレシピを研究して、それを皆さんに作ってもらって初めて成り立つんですね。だから、僕としては、日々のご飯を作る人を影で支える役割だと思ってるんです。そういう目線で見ると、ここ10年で家庭の食事が大きく変わってきたのではないかと感じているんです。
やっぱり選択肢がすごく増えたんですよね。いろんな商品やお惣菜も出てきているし、テイクアウトやネットショッピングもある。でも、選択肢が増えた分、家でご飯を作る人は、悩まれることも多いのではないでしょうか。

―コウ: それに、家でご飯を作る人=お母さんというご家庭はまだまだ多いですよね。でも、働いている方もいれば、社会活動をされている方もいる。その中で、ご飯も家事もこなすとなると、ものすごく負担がかかってしまっています。 「人生100年」と言われる現代、介護問題も避けては通れない。これからの暮らしの中で、食を通して人生を楽しむヒントをお聞きしたいです。
まずは、満屋さん、仕事でもプライベートでもご飯を作る時に気をつけていらっしゃることはありますか?

―満屋: そうですねえ。例えば、プライベートで外食する時はなるべく自分が作ったことがないものや、作れないものを選んでいます。美味しかったものは自分で再現してみますよ。「火と人」などでも取り入れる機会がないかなとか。低温調理を導入したのも、外食先で出た肉がすごく柔らかくて感動したのがきっかけなんです。

―コウ: だからあんなに柔らかかったんですね。

―満屋: そうなんです。温めるだけで生焼けもなく、時短にもなるし、魚も肉もジューシーで柔らかくなる。調理のゴミを減らすことにもつながります。
子どもも低温調理で作った肉や魚は大好きなんですよ。

―佐藤: 常に仕事のことで頭がいっぱいなんですね。

―コウ: それに、食の専門家でいらっしゃるだけにアプローチが実にスムーズですよね。
僕は仕事柄、ママさんのご意見をよく聞くのですが、「料理が苦手だけど、家で作らなきゃいけない。おいしくないと文句も言われる」「よそのお母さんが作るおいしそうな料理を見ると罪悪感を感じる」と、追い詰められている人がすごく多いんです。
日々のご飯作りが本当にしんどい方にいいアドバイスはありますか?

―塚本: そういう時は、思いきって外食を息抜きにして欲しいと思います。
「今日はお料理をお休みしたいな」という日に私達がお役に立てると嬉しいですね。

―コウ: 八仙閣さんはハレの日に行くようなお店もリーズナブルで普段遣いできるお店もあるので、ニーズに合わせて利用できますよね。
利用されるお客様にも食に対する変化を感じることはありますか?

―塚本: それはすごく感じます。食育に熱心に取り組まれている家庭もあれば、こどもさんの自由に食事されているご家庭もあると感じています。二極化している傾向があるのかな、と。これも家庭を取り巻く環境や親御さんの食に対する意識などが変わってきているからでしょうか。

―コウ: なるほど。同じくお店に立つ満屋さんはいかがですか?

―満屋: そうですね。家庭でも感じることはあります。うちの子は小学生なんですけど、周りのお母さんたちも働いていて帰りが遅い家はお店で済ませる方もいますし、宅配や生協を使う人もいます。
献立を考えるのも、毎日のことなので面倒な時があるんですよね。

―コウ: そうそう。「八仙閣」のレストランや「火と人」みたいな場所は時代的に求められているような気がするんですよね。普段使いできるリーズナブルなお店。「スマートミール」なら、栄養もあるし、むしろ家で作って食べるよりも費用対効果が高いかもしれない。お母さん一人に背負い込ますのではなくて、外食やレトルトを家庭のご飯の一環として取り入れる選択肢も当然あるべきなんじゃないでしょうか。

―満屋: サラダチキンを足すとか、レトルトカレーに具を足すとか、既製品や惣菜も使ってお母さんの負担が減れば、罪悪感も軽減されると思うんですよ。

―佐藤: そうそう、今は冷凍食品のクオリティーも高いじゃないですか。冷凍なんか絶対ダメなんて考えずに「いいじゃんたまに!!」ってなりたいですよね。

―コウ: 心強いお言葉ですね。確かに、家庭で作るおふくろの味ばかり求められると言うのも、そろそろツラくなっている気がして…。
「今日何食べよう」って迷う中に、外食が加わってもいいわけじゃないですか。

―塚本: 外食は思い出作りでもあるんですよね。家庭生活の一つの選択肢ですし、食べに行ったことは思い出の一つですから。私たちはそこをサポートしたいですね。
それに、最近だと子どもさんがお店を選ぶことが増えているんです。以前はお母さんや女性の意見で決める場合が多かったように感じるんですけど。

―コウ: 言われてみれば、うちもそうだ!外食は子どもが決めますもん。

―塚本: 子どもさん達が以前より食についての情報を知っているし、行ってみたいと思うことが多いんですね。

多様化する食卓に比べて、まだまだ家庭で料理を作る人への負担は解消されていない現実。便利なサービスや外食の利用は、解決策の一つになりそうです。
続いて後編では、する側にもされる側にもなりうる介護の問題について注目。
高齢者になっても食べることを楽しむために、知っておきたい介護食の現状について教えてもらいます。

後編はこちら