2020.12.04
コウケンテツ×福岡の食と人
"食育から介護まで、毎日をどう楽しむか
人生100年時代における食との向き合い方とは?"(後編)
多様化する時代の食との向き合い方について、食に関わる専門家と話し合う座談会。続いては、働く世代を待ち受ける、介護と食について話を進めます。
食べる力=生きる力 食欲を引き出すプロのアイデア!
―コウ: 食の話になると、やはり健康についても気になります。
家でご飯を作る時でも、お店を選ぶ時でも、栄養面か食べたいものか、どちらを取るのか悩む人も多いのではないでしょうか。特に、介護食となると栄養があって当たり前だと思うんですけど、佐藤さんは食と健康に関してどう思っていらっしゃいますか?やっぱり健康、栄養のある食事は取らないといけないのでしょうか?
―佐藤: そうですね。お年寄りの場合で言えば"食べるもの"ももちろん大切なんですけど、むしろ"食べる能力"=噛んで飲み込む能力、これが重要なんですよね。だから、私達介護に関わる人間は口や歯の環境であったり、一人ひとりの食べる能力を大事にしているんです。施設やデイケアの言語聴覚士や管理栄養士さん 訪問歯科など外部の歯科分野の専門職とも連携して、自宅介護の方も家庭でおいしく食べられるように考えています。
―塚本: 自宅で介護されている方のお食事は、ヘルパーさんが作っていらっしゃるんですか?
―佐藤: それもなかなか難しいところなんですよね。介護する側も高齢化している状況もありますし、かといって介護保険で言うところの家事支援には色々なルールがあるので、家族が仕事で忙しいから、調理できないから「ヘルパーさんお願いします」とはいかなくって。
―満屋: 施設で作る食事も課題はあります。食べる機能が落ちている人には「とろみ」をつけたり、ミキサーにかけたり、食べやすく作ろうとすれば、どんどん見た目が悪くなるんですよね。
―佐藤: そうなんですよ。
―満屋: 1日の楽しみである食事なのに、それでは食欲が沸かない。食事制限がある方でも、おいしそうな見た目は食欲の要なんですよ。でも、調理現場からしたら、安全に食べてもらわないと誤嚥などの事故につながる。そこを打開する方法は考えていかないと...。
―佐藤: 難しいところですよね。
―コウ: ここは一番の問題点ですよね。
―塚本: 介護食ではないですが、全て食べるもので補うのではなく、必要な栄養素はサプリで、食べたいものは別に楽しむと言う人もいるそうですよ。
―佐藤: 確かに、うちの息子の一人も、体型に気を使ってて。筋トレしてプロテインを飲んでますね。「ご飯できたよ!」って言っても、ご飯はお腹が空いてから食べればいいんだって。
―コウ: そもそもサプリメントとか、栄養補助食って必要なものなんですか?
―佐藤: 私もサプリメントはなんとなく飲んではいますけど、長続きするものは少ないですね。まぁ信じるか信じないかみたいな。
―コウ: 都市伝説みたいになってる(笑)
―佐藤: 高齢者に関して言えば、もちろん身体の色々な機能は低下するし、術後や筋力が落ちている時などには必要なものだと思うんです。いわゆる補助食品と言われるものに関して言えば、大手の食品メーカーさんが色々出されてますし、味も形態も進化しています。ひと昔前に比べれば、断然美味しいものが増えています。でも、栄養を摂れさえすればOKなんて考え方になってしまうようなことがあればちょっと悲しいですよね。
―コウ: 介護の世界では、食べることもエネルギーが入るってことなんでしょうか。
僕たちはついつい食べるって当たり前みたいな感覚になっちゃうんですよね。
以前、介護に詳しい作家さんと介護食について対談させてもらったことがあったんです。その時「栄養、栄養って言っているだけだったら、お年寄りは食べる楽しみとか、生き甲斐がなくなっていっちゃうのよ。自分が好きなものを食べたら誤嚥なんかしないのよ」とおっしゃってたのを思い出しました。
やっぱり"食欲"って言う位だから、プリミティブな欲求と言うのはすごく大事なんですね。
―佐藤: それっ、分かります!「こっちの柔らかいものが食べられないのに、どうして普通の硬さのこれは美味しそうに食べられたの!?」みたいな。介護現場のあるあるですよ(笑)
―コウ: そうなんですよ。その先生も「専門知識無いとか言ってるとダメなのよ。食欲は"欲求"なんだから」って。健康も大事だけど、例えばお肉にかぶりつく欲求なんてのは、どっかではちゃんと持っておかないと。バランスが逆に取れないのかなと言う気もするんです。
―満屋: こちらにも食事制限で「あれもダメ、これもダメ」って言われたって方がいらっしゃいますね。「食事サポート室」も、頭初は「栄養相談室」と呼ばれていましたが、食事相談したらお説教されそうなイメージなので"食サポ"に改めました。
―コウ: 「ここんとこカップラーメンばっかり食べちゃいました」「コラー」みたいな(笑)でも、実際に食事制限をしなければならない人にはどんなふうにアドバイスされるんですか?
―満屋: 例えば、「食べるのやめましょう」と言うのは、私自身にもできないんですよ。だから、子ども用のお茶碗にたくさん盛ったり、小さいコップで満タンに注いだり、なるべく食べられないことで寂しい気持ちにならないように考えています。
"やめる・減らす"だけではなく、悩みを抱える方の生活環境や食行動といった"ライフスタイル"に合わせた、継続可能なアドバイスをするようにしています。
―コウ: なるほど〜!柔軟な発想も必要なんですね。
普段の食事でも健康のためにやった方がいいこと、やらない方がいいことなんてありますか?
―佐藤: う〜ん何だろう。ご高齢の方はできるだけタンパク質が摂れるように工夫しましょう。ってのはよく言われますね。
―コウ: 僕もスポーツ選手を目指しているときに、体大きくするんやったらたんぱく質摂らないとって言われてました。骨や筋肉を作る栄養素なんですよね。
―佐藤: そうなんです。介護まで必要としないような予防的段階の方への質問票があるんですけど、その項目にもあるんです。「肉類、魚類、卵、牛乳のうち、いずれか2つ以上を毎日食べてますか」って。
だから介護状態にならないよう予防的なところでも重要かなあ。もちろんお野菜も必要ですけどね。色々準備するのは大変なので、そんな時には青汁でもいいのかなって。
―コウ: 極論出ました(笑)あの、よく言われている糖分、塩分、油に関して、正直摂らない方がいいんですか?
―満屋: 具体的には脂がないと作ることができない要素もあるから、どれもゼロというのはまず考えられないんです。それに、脂質は子どもにとって足りていないと言う報告もあるんですよ。足りてないから体が欲すると。
―佐藤: え〜、それは驚きです。ちなみに、えごまとかアマニとか健康にいいって言われる油あるじゃないですか?ああいうのはどうなんですか?
―満屋: う〜ん。結局、どの食品でも、これ一つだけ食べていれば健康になるというものはないんです。多くの情報を拾いながら、惑わされないように選択していくお手伝いをしていきたいですね。
「一人で悩まずにどんどん頼って」 介護生活を迎える前にやっておくことは?
―コウ: 今後誰もが経験する介護の問題なんですが、例えばシルバー世代の方であったり、それを取り巻く家族の方の心構えとして、具体的にどういうことを始めたらいいんでしょうか。
―佐藤: 口腔内や歯など、食べる環境のメンテナンスは重要だと思います。食べる能力をできるだけ長く維持していくのは大事なんです。100歳近くになられても食べる方は元気ですよ。食事に関していえば、介護保険外のサービスですが配食弁当のサービスもありますが… マンネリ化したり特殊な形態のものになるとどうしてもコストが上がってしまうんですよね。
―コウ: 介護食だけではないんですが、健康的なものってやっぱり価格が高くなっちゃうんですよね。
―満屋: 離乳食だったら手の込んだ素材で作るとしても期間はすごく短いけど、高齢者の介護は終わりが見えないですからね。家族の方にも仕事があって調理にかける時間が限られていたり、調理方法を変えて別に食事を用意しなければならないとか。
―佐藤: 根本的に用意してくれる側の家族にも時間もないですよね。
―コウ: う〜ん、介護食って、どう考えていったらいいんですかね。
―佐藤: そうですね。難しい問題ですが…、まずは自分の地域の介護の相談窓口を探してみてください。各地域に必ず「地域包括支援センター」がありますし、病気の治療で入院したら、そこには医療相談室のソーシャルワーカーもいます。介護や医療に関わる専門職は、常に新しい情報を探して必要な方に提供していくことも仕事なんですよ。食事も含めて介護を家庭で担うとなると、家族にとって負担になってしまう。だから、「自宅での介護は無理!!」って早急に結論を出さず、私達専門職に相談してください。施設がダメって訳じゃないけど、それ以外の選択肢も考えられるようにお手伝いしていきたいですね。
―コウ: あらかじめ、うちの近所にはこんなサポートをしてくれる施設があるって調べておくのも安心ですね。
―佐藤: そうですね。住んでいる地域の病院や介護の機関は常に連携を取るようにしていますので、どこの窓口から入ってもつながるようになっています。
やっぱり一番は「1人で悩むな」ですよね。
―コウ: あ〜なるほど。人に相談することができない、相談すると人に困ったアピールをしてしまうんではないか、そんな風に自分で追い詰めちゃうママさんも多い中、頼りになりますね。やっぱり人に相談するっていうのは大事なことですよね。
―佐藤: そう思います。
―塚本: 介護が必要になる前の方は、八仙閣もご利用いただいていますよ。
―コウ: 確かに!年代的に一番のヘビーユーザーなんじゃないでしょうか。
―塚本: そうなんです。よくご利用いただいています。外食店舗では、バリアフリーとか、減塩やアレルギーに対応してくれる店等がたくさんありますので、もっと外食を生活のサポートとして利用していただきたいなと。お持ち帰りについても、一個だと注文するのに気が引けるなんて方もいらっしゃいますが、こちらは大歓迎です。おうちのご飯に一品プラスするとか、工夫されている方もたくさんいらっしゃるので。
―コウ: それも心強いですね!
―塚本: テイクアウトのハードルが下がれば嬉しいですね。八仙閣でも最近は宅配やテイクアウトのサービスも増えてきたので、「ご家庭で今日何しよう」とか「疲れたなぁ」と思ったら、気軽にご利用ください。
食の未来に向けて 家族全員で食卓をシェアしよう
―コウ: 最後に、「人生100年」と考えたとき、これからの食ってどうあるべきなんでしょうか。未来に対してのお考えであったり、ポジティブなメッセージであったり、会社として取り組まれている事など聞かせていただきたいです。
―満屋: 今は超高齢化社会ですし、施設や病院の現場スタッフの手を確保することもとても難しいんです。なので、これからは働く人の負担を減らしながらも、利用する人が楽しく食べられるような環境を作りたいです。
それに、「火と人」では今後持ち帰りにも力を入れて1日3食サポートを目指しているんですよ。惣菜を手軽にテイクアウトすることで、その分お母さんの時間ができて、子どもと一緒にご飯が食べられる。そういったこれからの展開にアイデアを膨らませているところです。
―佐藤: 皆さんとお話しした今、特に思うことは、「年を取ってそれまで食べていたものが食べれなくなっても、食べたい時に食べたいものが安心して食べられる」そんな時代になればいいなと思います。やっぱり郊外だとテイクアウトできるお店も限られてくるし…。もっと近くで、「酢豚の柔らか~いの持ち帰りでください」みたいに、どんな人にも柔軟に対応してもらえる。そんな時代になったらいいですね。あとは、こういう「火と人」みたいな拠点があって、大人も子どももご高齢の方も健康的で美味しいものが楽しく食べれる場所が増えればいいなあ。
―塚本: 八仙閣では、地域貢献として、自治体や地元企業と一緒に「子ども食堂」の取り組みを進めているんですよ。小学校の目の前にある店舗で協力企業さんからいただいた食材をうちのスタッフが料理して子ども達に振る舞うというプロジェクトなんです。
―コウ: 素晴らしい!
―塚本: でも第一回目が始まる前にコロナで延期になってしまったので、代わりに肉まんを学校に持っていっておやつに食べてもらいました。
お店はそこにあるだけではなく、地域の安全を見守る役割を担っていると思うんです。人生100年時代ですし、子どもだけではなくいろんな年代の方へのサポートを考えていきたいですね。
―コウ: なるほど。いつかは、八仙閣さんに「食事サポート室」ができてもいいかもしれないですね。
さて、今回はいろんな立場の方と話すことができて勉強になったし、なんだかホッとしました。でも一つ心残りがあるんです。外食やサービスを利用するのもいい手段ですが、やっぱり日本で食の問題って女性だけの問題になっちゃうんですね。お父さんとか子どもとか、お母さん以外の目線でも考えないと問題は解決しないんです。しかも、女性が社会に出て経済を動かしているのなら、その分男性が家の中に目を向けないと。今日は全員女性でしたが、男性のメンバーも参加していただきたかったです。男性料理家としてできる一番の仕事は、男性の意識を改革していくことなのかなと思っているので。
―塚本: それって、単に男性が料理せよということではないんですよね。
―コウ: そういうことです!ヨーロッパでは、ママがご飯を作っていたら、パパが食器を並べて洗い物をするんですよ。食卓なんてやることが山のようにあるんですから。あなたが料理作るなら、私が買い物に行くよとか、その連携が見事なんですよ。そんな風に“食卓をみんなでシェアする”と考えるとハードルが大分下がるでしょう。男は料理しないといけないというわけじゃないんです。得意なことをそれぞれやればいいだけ。未来に向けての食は、そこが大きな課題なんじゃないでしょうか。
人生、介護問題、食の未来など、堅めな話が出るかと思いきや、プロの視点や家庭の目線を踏まえたユニークなご意見が出るわ出るわ!聞いているこちらも思わずワクワクした座談会でした。
何よりも印象的だったのは、お客さんや介護される方、そしてご飯を作る全ての人へ向けた優しい眼差し。人生100年の長旅を生きる私たちの背中を押してくれるような力強い言葉にとても励まされた気がします。
最後のコウさんの提言も含めて、今日の食卓から見直して参りましょう。