公園がリビングにも、ベッドにも、 会議室にもなる 手軽で楽しい

2020.11.20

公園がリビングにも、ベッドにも、
会議室にもなる
手軽で楽しい"ピクニック"を体感しよう

このページを開いたあなたに一つお願いがあります。時間に少し余裕があるなら近くの公園のベンチへ、難しいようであればベランダや日当たりのいい窓辺でも構いません。ちょっと移動してみましょう。自分のおなか具合に合わせて軽食やおやつ、それから飲み物も持参して。外に出る場合はゴミ袋もお忘れなく。
目的地に着いたら、持ってきたものを並べて、外の空気で深呼吸を一つ。
ハイ!今、あなたのピクニックがスタートしましたよ。

「え!こんなのでいいの!?」「お弁当とか準備するものじゃないの?」という声も聞こえてきそうですが、思い立ったらいつでもできるのがピクニックの魅力なんです。その証拠に、移動する前と比べてみると、なんだか気分が軽やかになっていませんか?持ってきたおやつや飲み物も、いつも以上においしく感じられるはずです。
「今度は友達を誘って、公園にでも行ってみようかな」なんて気持ちが湧いてきたら、ピクニシャン・ピクニシェンヌ(=ピクニック上手)への第一歩。
もっと自由に、もっと個性的にピクニックを楽しむコツを学んでみませんか?

今回は、福岡都心部を中心に活動する「福岡ピクニッククラブ」主宰の片田江由佳さんと一緒に、公園や建物管理などを手がける緑化・メンテナンスのプロ「株式会社ファイブ」の後藤良一さん、稲葉博史さんの元へ。
ピクニックを実際に体験しながら、公園という憩いの場の新たな可能性を探ります。

食べ物や飲み物はその日の気分で持ち寄って。
青空の下で見つけた"公園ピクニック"の魅力

コロナの流行により、密を避ける屋外施設が注目されています。特に街中のどこにでもある公園は一番身近なアウトドアスポット。キャンプやBBQのようにしっかり準備する必要はありません。最初にお話ししたように、ちょっとした食べ物や飲み物と座る場所があれば、ピクニックが楽しめるんです。

今回のゲスト「福岡ピクニッククラブ」の片田江さんによれば、どんな年代でも自分たちらしいやり方で無理なく楽しめるのがピクニックの醍醐味。
まずは"考えるより感じろ"ということで、実際に体験してみましょう。

目的地の総合運動公園「なまずの郷」へ行く前に向かったのは、福津市のとある大型スーパー。ピクニックで使う食材を購入するんですって。ピクニックと言えば、お弁当やら水筒やら準備が大変なイメージがありませんか?でも、そんな心配はいりません。こうやって目的地周辺で気軽に調達するのもピクニックのコツなんです。

― お弁当を買うのではなく、好きな食材を選ぶだけでいいんですか?

「福岡ピクニッククラブ」片田江由佳さん(以下、片田江) そうなんです。一人一品選んで持ち寄ってみんなでいただくのが私たちのスタイル。買ったものを持参してもいいし、料理が好きなら作ってもいい。全員飲み物を持ってきちゃったり、おやつに偏っちゃったりという場合もありますが、それもいい思い出になるでしょ?

― 確かに、集まってから見せ合うと盛り上がりそう。 見知らぬ土地での調達というのもワクワクします。

片田江 今日はスーパーですが、「コンビニしばり」とか、海が近い土地なら「魚系しばり」とか、テーマを決めるのも面白いですよ。

― 普段あまり話さない人が一緒でも会話のネタになりますね。

片田江 そうそう。私たち「福岡ピクニッククラブ」は、友達だけではなく、"初めまして"な人とも一緒に楽しむことを目的としているんです。「あの子が持ってきたパンに私のつくってきたマリネを合わせたら意外とイケる!」みたいな、そういう小さな出会いや発見も含めてピクニックなんですよ。

― なるほど!出会いの場でもあるんですね。

あれやこれやと買い物をして、いよいよ総合運動公園「なまずの郷」へ。施設を管理する「株式会社ファイブ」の後藤さんと稲葉さんに園内を案内していただきながらお話をお聞きしました。
PayPayドーム約2個分という広大な敷地の中では、カラフルな遊具で子どもが元気いっぱいに遊び、多目的グラウンドやテニスコート、弓道場などのスポーツ施設で老若男女さまざまな年代の人々が汗を流しています。

右から、「福岡ピクニッククラブ」の片田江さん、「株式会社ファイブ」の後藤さんと稲葉さん。場所は爽やかな風が吹き抜ける和風庭園の東屋

― 園内でピクニックをするとしたら、どこがおすすめですか?

「株式会社ファイブ」稲葉博史さん(以下、稲葉) 芝生広場ですね。これだけきれいで広い芝生ってそうないと思うんですよ。

― 遠くから見ても整っていますよね。利用される方は普段どんな風に過ごしていらっしゃるんですか?

「株式会社ファイブ」後藤良一さん(以下、後藤) のんびり過ごされる方も結構多いですよ。一周1.2 kmあるのでお散歩をされる方もいらっしゃいます。芝生での野球やサッカー、ラグビーは禁止ですが、子どもさんとボール遊びとかバトミントンぐらいなら大丈夫。事務所では道具も貸し出していますよ。

片田江 道具をお借りできるのは嬉しいですね。私はスポーツよりも、朝から夜までゴロゴロしながらピクニックするのが好きなので、アクティブじゃない過ごし方もご提案いただけるといいなと思います。

稲葉 そうですね。のんびりするにもぴったりですよ。

後藤 子どもさんとお母さんがボールで遊んで、その間にお父さんがお昼寝しているという光景はよく見ます。

― まさにおうちのリビングを外に持ってきたような光景ですね。
お出かけとくつろぎが両方叶えられるし、アウトドアですが、かなりハードルが低い印象になりました。

「芝生広場」は、小高い丘になっていて見晴らしがよく、芝生も絨毯のようにふかふか。園内をほどよくお散歩した後の心地よい疲れもあって、寝っ転がりたい欲がムズムズと湧いてきますが、そこは後のお楽しみに。まずはピクニックのセッティングを始めましょう。

― 敷物は、花見などでよくあるブルーシートじゃないんですね。

片田江 ブルーシートは絶対使わないです!ビニールがゴワゴワして座り心地が悪いので。ラグ(敷物)には使わなくなったテーブルクロスなどの布などを持ってきます。芝生って湿っていることが多いので、ビニールシートの上にかわいい布を敷くといいですよ。

― 布だとふんわりと柔らかくて長時間座っていても疲れないです。そういえば、割り箸や紙皿も使わないんですね。

右側のバスケットは片田江さんのピクニックセット。ここまで豪華なものでなく、普段遣いのカゴやバッグでOK。ゴロゴロするならクッションのご用意を

片田江 割り箸や紙皿はゴミになるので使いたくないんです。なので、食器は普段使いのものを持ってきています。あと、何人参加するか分からない場合も多いし、パンやフルーツなどはその場で切り分けると楽しいので、カッティングボードとパン切りナイフもあると便利。かわいい柄のペーパーナプキンもパンの下に敷いてお皿にしたり、食器を包んだり、使い勝手がいいんですよ。

後藤 公園側もゴミ箱を無くすところが増えているんですよ。カラスや野生動物の被害でゴミが散乱してしまうんです。今ではゴミを持って帰っていただくマナーが定着したようで助かります。

片田江 私たちのグループもゴミは全部持ち帰るようにしています。"ゴミが無い"という点もピクニックするときの居心地の良さにつながるので、そういう場所を無くさないためにも利用者側が協力しないと。美しい場所を美しく使いたいですね。

― 公園側と利用者の思いが一致しましたね。ちなみに、片田江さんのようにピクニックを楽しむ方はいらっしゃいますか?

後藤 お弁当を持って来ていらっしゃる方は多いんですけど、こんな風に料理を広げているのは見たことないです。どれもすごくおいしそうですね。 テーマは「大人のピクニック」ですか?

片田江 実は料理は全てスーパーで買ったものなんです。だから、テーマとしては「手ぶらピクニック」かな。

後藤 ええ〜!お惣菜なんですか。見栄えが全然違いますね。

片田江 道具や盛り付けを工夫すると気分も変わるでしょう。

― 準備するのもワクワクしますし、いろんな楽しみがあるんですね。

片田江 そうなんです。ピクニックって結構奥が深いんですよ。諸説あるのですが、1802年にロンドンで始まったときは、室内で行う社交パーティーのことだったようなんです。その後、貴族の領地が市民に開放されて公共の「公園」が誕生したことなどを受けて、屋外でのピクニックが普及したといわれています。時には議論の場だったり、男女の出会いの場だったり、自分たちの街を楽しく豊かに暮らすための手段の一つとして、さまざまな形でピクニックは進化してきたんですね。
「福岡ピクニッククラブ」も、私たちなりのピクニックをもっと探っていきたいなと思って活動をしているんですよ。

― 時代に合ったスタイルで変化してきたんですね。片田江さんはどんな点に魅力を感じていますか?

片田江 私がピクニックにハマったのは、福岡から離れた時にピクニックを教えてくれる先生に出会ったのがきっかけです。縁もゆかりもない土地なのに、ラグをちょっと広げただけで自分の居場所ができた気がして、とても感動したんですよね。その感覚をたくさんの人に伝えたいと「福岡ピクニッククラブ」を立ち上げました。

片田江 それでね、普段は橋の上とか、道とか、街中のちょっとした場所でもピクニックをしているんですよ。そういった場所でしばらく過ごしてみると、私たちの周辺でピクニックをする人がポツポツと増えてくるんです。その前まではひと気がなかったのに。「ここで座ってもいいんだ」「この場所は結構気持ちいいぞ」なんて気付く人が出てくる。まさに"ピクニックがピクニックを呼ぶ"状態。いろんな人にピクニックの楽しさを伝えたいと思う私にとっては、それが一番の喜びかな。街中を探してみれば、まだまだピクニックに使える場所がいくらでもあるんですよ。

“安全第一”と“健康増進”を合言葉に 誰にでも親しまれる“憩いの場”作り

「株式会社ファイブ」在籍、「なまずの郷」を管理する福津市NMH共同事業体 統括所長を務める後藤良一さん

片田江 広場でこのままゴロッとするのもいいけれど、「なまずの郷」は公園では珍しい和風庭園や噴水や池など、いろんなスポットがあるから一日中過ごせそうですね。

― どう過ごすか目移りしちゃいますね。でも、これだけたくさんの施設があると管理も大変そう。
公園管理って、普段はどんなお仕事があるんですか?

後藤 利用者の方が安心して気持ちよく使ってもらえるように園内美化と安全点検、保守管理を第一にしています。毎朝トイレや水回りの掃除、さらに巡回して異常がないか確認、今日は園内の池の清掃も行っています。

稲葉 あとは、一級建築士や造園施工管理の免許を持ったスタッフが定期的に巡回してチェックしています。その結果を元に自治体などと連携しながら計画を立てて補修しているんですよ。

― ピクニックしている芝生広場もこれだけの状態を維持するのは大変な作業ですよね。

後藤 この状態を維持するには年間14回ぐらい芝刈りをしないといけないんですよ。特に5~9月は一番伸びるシーズンなので、月に複数回刈る必要があります。

― 管理のコツはこまめに整備されることなんですね。

後藤 そうですね。あと、年に何度か、土の中に穴を開けて空気と肥料を送る「エアレーション」で土がカチカチに固まらないようにしています。

稲葉 園内の植木もできるだけ背丈より低い所の枝は切って、人に当たらないように整えているんですよ。樹木も老朽化してくると中が空洞になって倒れることがあるので、お客さんに怪我をさせないようしっかりとしたチェックが必要です。

― 造園のプロならではの気配りですね。

稲葉 保守管理だけではなく、健康増進や仲間づくりへの貢献も大事な仕事です。スポーツ施設を備えているので、その管理や大会の企画運営も私たちが手がけています。サッカーの「なまず杯」、少年野球大会、弓道大会などは、自治体や地域の皆様と一緒に進めているんですよ。今年はコロナの影響で中止が多いので残念ですが。

― コロナと言えば自粛があけた後は、公園やキャンプ場の利用者数が増えたという話も聞いています。「なまずの郷」はいかがですか?

後藤 緊急事態宣言の間は公園閉鎖という形を取りましたが、多目的グラウンド以外は利用者が戻ってきています。

― お出かけスポットとして訪れる方が増えているんでしょうか。

後藤 そうですね。連休中には450台ある駐車場が満車になりましたし、園内で販売している鯉の餌がお子さん連れに大人気でしたねぇ。

― 鯉にとってはありがたいお話ですね。今後はイベントなども行われるんですか?

稲葉 来年の5、6月には「なまずの郷」30周年を記念して、周辺にある「ほたるの里」「みずがめの郷」と合同でスポーツ祭を実施予定です。

後藤 地域の方やスポーツ団体の方に協力して頂いて、何日かに分けて3会場でいろんなジャンルの大会を開催するんです。この日は、みずがめの郷で野球、次の日はなまずの郷でグランドゴルフ、という感じでね。

― それは面白そうですね!

後藤 オリンピックみたいでしょう。稲葉常務のナイスアイデアです。

稲葉 ふふふ。来年は東京オリンピックも開催されますからね。

― タイミングもバッチリ!それぞれの大会の運営なども携わっていらっしゃるんですよね。公園の管理と言っても、本当にいろんなお仕事があるんですね。

広々とした芝生広場はイベントにも使われる。写真は昨年10月に開催されたイベント「グリーンマルシェ」で予想を超える応募者が集まった「赤ちゃんのハイハイ競争」。この企画、運営も手がけたそう

新たな出会いが実を結ぶ!? 公園の個性を磨くピクニックを考える

― 先ほどイベントの話になりましたが、これだけ広いならピクニックのイベントもできそうですね。

後藤 もし「なまずの郷」をテーマにしてピクニック体験をするなら、どんな内容になりそうでしょうか?

片田江 さすがに、「なまず」をテーマに持ち寄るのは難しいので、地元の特産品とか、今日みたいに近くのスーパーやコンビニで買ったものでもいいかもしれません。家族連れなら「我が家の味を持ち寄ろう」とか。そういうのもアリだと思います。

「なまずの郷」の由来は、近所の「大森宮」から。こちらでは、約500年前にこの地を統治していた河津弘業(かわづひろなり)の息子の河津 興光(かわづおきみつ)が戦地で大なまずに助けられた説話が伝えられ、「なまず神社」とも呼ばれている。園内の池にも名前にちなんで「なまず」を飼育中。夜行性のため昼間に出会えるとラッキーなのだとか。

片田江 公園のコンセプトにちなんだもの、例えば「子どもと楽しくピクニック」みたいな形でもいいんじゃないでしょうか。あとは、趣味の集まりにするとか。
以前、休日のお父さんの威厳を発揮してもらおうと将棋やオセロを用意したこともあります。お父さんがお子さんに教えてあげて、ものすごく盛り上がっていましたよ。

後藤 それも面白そうですね。テーマを決めないと参加者は集まらないものですか?

片田江 テーマを決めずに、コンテスト形式にしてもいいかもしれませんよ。「ピクニックを一番楽しんでいるグループを表彰します」みたいな。
優勝チームに「テーマはなんですか?」って聞いて、それが面白かったら、次の回のテーマにしちゃうとか。利用者のアイデアを取り入れていくんです。

後藤 なるほど、参考になります。コンテストを開催する場合の注意点はありますか?
「なまずの郷」としては、煮炊きしない、食べ物をは持ち寄りでお願いする条件になるとは思いますが。

片田江 公園としてNGな行為だけを伝えて、あとは自由にアレンジしていただく方が良いのではないでしょうか。審査のやり方としては、面白いと思ったグループに勝手に表彰状を渡していく形式にするとか。投票で一位を決める形も盛り上がりますが、表彰式の時に参加者が帰っちゃって入賞者不在なんてこともありました(笑)

後藤 ワハハ。コンテストなら他の人のピクニックを見学できるのもいいですね。

片田江 そうなんです。「そんな過ごし方があったんだ」「来年はあれ持ってこよう」とか、参加者同士で勝手に学び合う。そうなると次の年にはもっと工夫してみようと思いますよね。公園のリピーターにもなってくださるじゃないですか。

― 確かに。いろいろと試してみたくなりますね。ピクニック上手の目から見て、こういった公園へ期待することはありますか?

片田江 コンテストじゃないですけど、禁止事項だけを並べるのではなく、素敵な使い方をしている人をもっと伸ばすような公園だといいなと思います。ピクニックを楽しんでいる人達自身がもうすでに公園の宣伝マンになっていると思うので、利用者の方と一緒に盛り上げていければ。

後藤 勉強になります。私たちもピクニックについてはまだまだ素人なので、皆さんの過ごし方をもっと教えていただきたいですね。

片田江 この公園も素晴らしいですし、私たちがピクニックをやっているのを見て、来園者の方に「楽しそう」って思っていただけると嬉しいですね。もし「なまずの郷ピクニックコンテスト」されるなら、ぜひ審査員やりたいです!

後藤 ぜひ宜しくお願いします!

「こんな笑顔は見たことがない」と稲葉さんも驚いた後藤さんの表情。
ピクニックの効能が一目で分かるいい顔だ。

まとめ

実際にピクニックを体験しながら、片田江さんにさまざまな質問を投げかけていた後藤さんと稲葉さん。晴れた空の下では仕事の話もイキイキとした表情になり、ユニークなアイデアも飛び出します。
「ピクニックに来てしかめっ面になる人はいないんですよね。もう語感から楽しげでしょう」という片田江さんの言葉をそのまま体現した姿に、改めてピクニックの魅力を実感しました。次の週末、いえいえ日々のちょっとしたスキマ時間にでも、好きな人を誘ってピクニックへ出かけてみてはいかがでしょう。

福津市総合運動公園 なまずの郷

〒811-3207 福岡県福津市上西郷779-1
営業時間:4〜10月6:00〜21:00、11〜3月9:00〜21:00/12/29〜1/3は休み
TEL:0940-42-8800(なまずの郷公園管理事務所)
HP:https://www.fukutsu-parks.jp/namazu
Facebook:https://www.facebook.com/namazupark.fukutsu/
※この情報は11月現在のものです。状況によって営業時間や休園日などが変わる可能性もありますので、最新の情報はホームページやSNSで確認してください。

福岡ピクニッククラブ

ピクニシャン・ピクニシェンヌ(ピクニック上手)を増やそう!目指そう!をモットーに、福岡のまちなかでゆるーくピクニックを楽しむグループ。
不定期にピクニックを楽しみながら、行政や企業と共同のピクニックを企画することも。
Facebook:https://www.facebook.com/picnicclubfukuoka/