誰からも愛される日本一の野球チームを目指して 地域と共に築くフィールド・オブ・ドリームス

2021.02.12

誰からも愛される日本一の野球チームを目指して 地域と共に築くフィールド・オブ・ドリームス

福岡市東区の東浜、大きな丸いタンクが並ぶ工場地帯の一角に球場があることをご存知でしょうか?
ここ「SGマリンフィールド東浜」は、社会人野球チーム「西部ガス硬式野球部」のホームグラウンド。スコアボードの向こうに広がる海を背景に、10代〜30代と幅広い年代の選手達が今日も汗を流しています。
創部して10年とまだ若いチームながら、香田誉士史監督のもとで着実に実力を付けてきたナイン達。2020年には創部以来初となる都市対抗野球大会での初勝利、そして全国8強を達成という嬉しいニュースをもたらしました。
その活躍の支えとなったのは、職場や地域の皆さんの応援、そして創部に尽力した故田中優次相談役の情熱でした。
野球と仕事に打ち込みながら、私たちに夢を与えてくれる社会人野球「西部ガス硬式野球部」の今をお伝えします。

香田誉士史監督(左)と村田健投手(右)

企業の看板となり、地域を活性化 社会人野球チームの役割と厳しい現状

「西部ガス硬式野球部」のお話の前に、まずは社会人野球について少しご説明しましょう。社会人野球は明治時代に端を発し、1949年(昭和24年)には全国9地区342チームが加盟して「日本社会人野球協会」を設立、後に「日本野球連盟」に名を改めました。現在では、「西部ガス硬式野球部」のように企業や公共団体などに属するチームを「会社登録チーム」、それ以外を「クラブ登録チーム」に分けています。

企業にとって野球チームを運営することは、応援することで社内の士気を高め、一体感を育むというメリットがあります。さらに、スポーツの発展や人材育成、社会活動で地域に貢献する重要な役割も担っています。
ただし、「会社登録チーム」は母体が企業なだけに、経済状態の悪化や不況のあおりを受けてしまうことも多いのです。ピーク時には全国で200を越していたチーム数も、2020年(令和2年)では100を切っているほど。全国で活躍している強豪チームでさえ廃部や休部になってしまう厳しい状況が続いています。
特にチーム数が最低ラインを行ったり来たりしていた平成20年代。2012年(平成24年)に「西部ガス硬式野球部」は発足しました。
チーム結成の旗印を掲げたのは、当時社長だった田中相談役。スポーツの力を信じて、会社だけではなく地域、そして社会を盛り上げたいという田中さんの遺志が今も野球部の背中を押しています。

(ご参考)
日本野球連盟ウェブサイト:
http://archive.jaba.or.jp/gaiyou/index.html
http://archive.jaba.or.jp/team/clubteam/suii.pdf

第88回都市対抗野球大会九州予選鹿児島大会特設サイト
「社会人野球について」:
http://toshitaikou.jaba-kagoshima.jp/amateur_baseball/amateur_baseball.html

高校野球の名将が飛び込んだのは自律が求められる"大人"の野球界

「西部ガス硬式野球部」の活動理念の中に、こんな一文があります。
「西部ガスおよび西部ガスグループの社員、その家族、お客さまの誰からも愛される強い野球部を目指すこと」
年々熱気が高まる応援の声に応えるためにも、野球部では全国大会で結果を出すことを目標に掲げてきました。けれども、プロのように1日を全て練習に費やすことはできません。選手達は、午前中は練習、午後から仕事という風に、限られた時間の中で技術を磨かなくてはならないのです。
「でもね、長く練習しないと勝てないということは無いんです。要は決まった時間でどれだけ集中して取り組むか。そうやって強くなることも社会人野球の面白みだと思います」と話す香田監督。
かつて甲子園でチームを連続優勝に導くなど、数々の実績を持つ名指導者ですが、社会人野球に触れたのは西部ガス硬式野球部が初めてだったそうです。
「大学卒業後に社会人野球のチームに入りたいと考えた時期があったのですが、別の道に進んだんです。いつか社会人野球に関われたらと思っていたら、西部ガス硬式野球部創部のお話をいただいて。最初はコーチとして参加して、杉本前監督の下で勉強しました。高校生も社会人も野球として通じるところはありますが、やはり社会人になると技術レベルも高いし、雰囲気が大人なんですよね」

試合中に気になったことはコーチと共有し、選手に伝えてもらうという香田監督。一人一人を観察しながらアプローチを探るそうです

10代〜30代以上と年齢層も幅広く、しかも仕事でも社会と関わっている選手達は野球への向き合い方も学生野球と異なるそうです。
「キャプテンを中心とした選手間のミーティングを行うのですが、どの選手も活発に意見交換をしていますし、上の年代の選手が下の選手にアドバイスすることも多い。私と一対一で面談をした時も、その内容をきちんと個人練習に取り入れている。こちらが具体的に指示をしなくても、自分で考えて動くのが当たり前になっているんです」
その傾向は、創部当時から階段を一段ずつ登るように着実に身に付けてきたもの。"心・技・体"を研ぎ澄ませてきた結果が昨年のベスト8につながっていると香田監督は分析しています。

仕事があるから安心して取り組める 会社での励ましも活力の源に

熊本県出身の村田健投手は2020年に都市対抗野球大会で優秀賞を受賞。香田監督によると「精神的にも非常に安定していて、やると決めたら必ずやり遂げる芯の強さもある。いずれはミスター社会人と言われる存在になって欲しい」と期待を寄せているそう

選手は野球と仕事の両立についてどう考えているのでしょうか?香田監督は選手との個人面談で仕事についてのヒアリングを必ず行うそうです。
「練習があるので仕事の時間にも限りがあるのですが、責任のある仕事を任されているようです。職場の皆さんは試合にも応援に来てもらっていますし、コロナ以前は激励会もたくさん開いてくださったと聞いています。そういうことが選手達にとって非常に励みになっているんですね。それに、仕事があるから社会人としての自覚や責任感が出てくるんです。野球だけやっていると引退後に何をすべきか不安を感じることも多いと思うんですよ。でも、職場という居場所もあるからこそ、選手達は安心して野球に打ち込めるんです」

実際に「西部ガス法人リビング開発部」で働く村田健投手に、会社の仕事について聞いてみました。
「私はハウスメーカーへの営業をサポートする業務に就いています。午前中に野球の練習がある日は午後から職場に戻っていますが、やはり職場の理解と応援が無いと両立は難しい。職場の皆さんには都市対抗野球大会の時もメールやLINEでメッセージをたくさんいただいて、本当にありがたいです」

「それに、仕事自体もとても楽しい。今は自分の価値を上げるために資格取得にも挑戦しています。自分で目標を決めて、柔軟にいろんな道を考えながら努力するというスタイルは野球も仕事も一緒なんじゃないでしょうか」
また、社会人になったことで野球のプレースタイルも変化したとか。
「野球の試合でも常に紳士なプレーを心がけるようになりました。ヤジを飛ばしたり、言葉遣いが悪いのは論外です。観客の皆さんも、対戦相手も家でガスを使ってくださっている、いわばお客様になるかもしれないんですから(笑)」

子ども達や地域の人々との交流を通して西部ガスグループの思いを伝えたい

「仕事を通して社会との関わりが広がる一方で、「西部ガス硬式野球部」では地域活動にも力を入れています。毎年開催されている子ども向けの「ちびっこ野球大会」もその一環。なかなか試合に出られない小学三年生以下の子どもたちに本格的な球場で試合や野球教室を楽しんでもらうイベントで、審判やボールボーイ、アナウンスや駐車場の誘導まで選手がスタッフとなって盛り上げます。
今年は残念ながらコロナの影響で中止となってしまいましたが、小さな子どもだけではなく保護者も選手との触れあいを楽しみに参加するそうです。
「やっぱり西部ガスグループや地域の皆さんに“おらがチーム”と思ってもらわなければいけない。そのためには、仕事でも地域でもしっかりと貢献して、ワクワクするような面白い野球を見せないと。それが社会人野球のあるべき姿だと思うんですよ。田中相談役もよくおっしゃっていましたが、西部ガスグループのシンボルになるような強くて愛される野球チームを目指したいですね」

ベスト8は日本一が見えた大会 全国での経験を糧に次なる目標へ

田中相談役は都市対抗野球大会直前に亡くなられましたが、いつもお客様とスタンドから試合を見ていらしたそうです「田中相談役は試合をかなり見てくださっていましたね。自分で結果を分析されて、的確なアドバイスをいただきました。相談役の思いに泥を塗らないように、これからも努力し続けます」

チームの転機となる全国大会初勝利を経て、香田監督は次なるゴールに向けて動き出しています。
「去年は守備で3点以内に抑える、攻撃側は5点以上取るという目標を立てていたんです。実際にピッチャー中心の守備力は非常に良くて、練習試合、オープン戦、公式戦と、かなりの割合で達成できた。次は打力ですね。それも、個人個人の打率ではなく、サイン成功率であったり、走塁力であったり、点と点を線でつなぐこと。打線の向上が課題だと感じています。都市対抗野球大会で全国の強豪と試合したことで、目標が非常にはっきり見えてきました」

村田投手は一年ごとに毎日続けるトレーニング目標を設定しているそう。「今年は連投できる体力をつけるために握力、前腕を鍛えようと思っています。自分の実力を分析して具体的に考えないと成長につながらないから」

同じく村田投手も次の大会に向けて決意を新たにしています。
「一昨年までは、やっぱり勝つイメージが全然浮かばなかったんです。昨年ベスト8に入って、全国大会での勝ち方や次への課題が見えたのが一番大きな収穫だったんじゃないかな。今は負けて悔しかった気持ちの方が大きいので、今年こそ日本一を目指します!誰からも愛される強いチームを目指して」

力強い二人の言葉には、創部以来受け継がれてきた思いが息づいています。
震災の自粛ムードが立ち込めていた2012年、社員や地域の皆さんが前を向いて進めるようにと創設された「西部ガス硬式野球部」。コロナ禍で活気を失くした街に再び種火を灯すように、今年もこの球場から大きな夢がスタートしました。

SGマリンフィールド東浜

〒812-0055 福岡県福岡市東区東浜2-9-118

西部ガス硬式野球部 試合のスケジュールはこちら
https://www.saibugas.co.jp/baseball/index.htm