2021.03.08
正しく知って、正しく怖がり、正しく使う
子どもの好奇心に火を灯す"火育"のススメ
あなたは、一番最初にコンロを使って料理を作った時のことを覚えていますか? はっきりとした記憶が無くても、きっと緊張感や恐れ、そして大人の世界に足を踏み入れたようなワクワク感を味わったのではないでしょうか?
子どもたちとガスコンロのファーストコンタクトは、火の危険性も便利さも理解する"火育"の第一歩。火の扱いを覚えることで子どもたちの世界はまた一つ広がり、生き抜く力が身に付きます。
けれども、暮らしが便利になるにつれ、火を使う機会はめっきり減ってきました。さらに、調理器具や着火道具もどんどん改良されています。
そんな中で、火について教えるにはどんな点に気をつければよいのでしょうか?
今回は、家庭の火育を取り持つエネルギー供給会社として、西部ガスグループが取り組んでいる「食育講座」を取材。親子で料理を楽しむ教室に参加して、火育のポイントを教えていただきます。
食への興味に合わせた三つの柱で子どもの成長を伸ばす食育講座
親子料理教室が開催されているのは、福岡市の浄水通にある「食文化スタジオ」。
こちらでは、子どもが食に興味を持つきっかけづくりとして、「KIDSキッチン」「KIDSラボ」「KIDSレストラン」と3つの食育講座を開催しています。
今回の親子料理教室は「KIDSキッチン」の一環で、いわば食への入門編。食べることの基礎を学び、台所に入ってもらうという狙いがあるそうです。
その次の段階が、食に興味を持つ子どもに向けた「KIDSラボ」です。こちらは、砂糖からキャラメルを作るなど、日常の調理からもう一歩踏み込んだ実験的なカリキュラムが用意されています。さらに料理が大好きになった子どもに向けたのが、自分で作った料理を家族に振る舞う「KIDSレストラン」。シェフとして食の仕事に触れることができます。
「KIDSキッチン」→「KIDSラボ」→「KIDSレストラン」と、食への関心度に合わせて参加できるので、子どもが自主性を持って学べるのが魅力です。
この食育講座の企画、運営に関わっているのは、西部ガス営業本部マーケティング部の池田泰造さんと食文化スタジオのスタッフ。企画はスタッフ全員が参加し、トレンドや社会の動きを反映させたテーマを取り上げているそうです。
「ステイホームが続く今は、家族みんながそろってご飯を食べられる喜びを実感されているご家庭が多いのではないでしょうか。だからこそ、子どもだけではなく親子が一緒になって料理の技術や知識を学ぶ機会の提供がますます重要です」と池田さん。
実際に、「親子料理教室」では料理に慣れていないお父さんの参加も増えているんですって。子どもではなくお父さんが料理して家族に振る舞うレストラン企画も大好評とか。今後は調理の手間を工夫する時短料理など、多様化する時代の要望に沿ってさまざまなアイデアを検討しています。
さらに、食育講座ではもう一つ、驚きのこだわりが...。なんと、講師は全てプロの料理人なんです。食の大切さを伝えるためにも、地元で食育の取り組みをされている方にお願いしているそうです。
「有名店のシェフに学べると、保護者の方も興味を持って参加していただいています。毎回キャンセル待ちが出るほどなんですよ」と、スタッフも手ごたえを感じています。
食材のように"火の目利き"も大事 調理を楽しみながら感覚を養う
食育講座と同様に、スタート時から"火育"についても講座を行ってきました。食育講座では、メインとなるのはコンロの使い方ですが、火育では、火起こしや薪・炭を使った料理体験します。
「火は使い方によっては危ない目に遭うこともありますが、きちんと使えば便利な道具になる。その扱い方について正しく知ってもらう、そして正しく怖がることが大事なんです」
そんな池田さんの言葉は、「KIDSキッチン」にも反映されています。
この日のテーマは「中華料理人に学ぶ チャーハンとはるまき作り体験」。
中華の鉄人・脇屋友詞シェフがプロデュースするレストラン「蓮双庭」から料理長・平賀大輔さんが講師を務めます。
火力が勝負の中華料理。中でもチャーハンは火力とスピードが命です。春巻きは具材を皮で巻いて油で揚げるなど意外に大変ですが、揚げたてのおいしさは格別です。
「料理って、食べるのは一瞬ですけど、それまでにたくさんの手間がかかりますよね。それでも作ってみたいと思えるメニューを選びました。やっぱり楽しくないと興味が湧かないでしょう。それに、火を使うのに慣れていない子どもに直火の良さを伝えたいという意図もあります。古代から生活を支えてきた火は、今の時代でも生活していく上で絶対に必要なものです。コンロの使い方だけではなく、火加減や油の適温を見極める感覚もつかんで欲しいなと思います。野菜や魚のような食材と一緒で、火も目利きが必要ですから」
調理のトライ&エラーから子どもの可能性を引き出す
親子料理教室の対象年齢は小学1〜6年生ですが、この日は低学年のお子さんがやや多め。その中で、初めてコンロ前に立つ谷川美颯ちゃん・智代子さん親子に密着しました。
おうちでは料理する智代子さんのそばで卵を割ったり、味噌汁の味噌をこしたりとお手伝いを頑張る美颯ちゃん。台所のお母さんの姿を見慣れているのか、コンロの火を怖がることなく、フライパンを持つ手もしっかりと動いています。
特に、強火のまま短時間で炒めるチャーハンは先生も太鼓判を押すほど。全体はパラリと、それでいてお米一粒一粒はふっくらとした絶妙の食感です。
春巻きは、やや具だくさんになりすぎて焦げてしまったものも。でも、その失敗こそが学びを生むのだと平賀先生は言います。 「どうしてうまくできないのか、その理由を考えることが大事なんです。頭だけで覚えるより、体験した方が身に付く。これは料理人の修業でも同じです。しかも大人になるほど基本的なことは聞けなくなるんですよね。だから早めに失敗して、正解を見つけ出すのが大切。その積み重ねが火育でもあるし、食育でもあるんじゃないかな。勉強やスポーツと一緒ですよね」
調理が終わり、できたてのチャーハンと春巻きを頬張る谷川さん親子。いつもとは逆に調理をアシストする役に徹した智代子さんは、美颯ちゃんの姿に驚いたそうです。
「普段は自分でやった方が早いし、教える手間がかかるから、美颯をコンロのそばに立たせたことがなかったんです。小さい頃にヤケドしそうになったり、包丁でケガをしたことがあったり、危険に対するトラウマもあったし...。でも今日の様子を見てみると意外とできることは多いみたい。みんなに褒めてもらってやる気のスイッチが入っているうちに、どんどんお手伝いしてもらおうかと思います」
美颯ちゃんも「フライパンで作るのが楽しくてワクワクした!次はハンバーグを作ってみたい」とニコニコ大満足でした。
「火育は何歳から始めればいいの?」、「ヤケドしたらどうしよう...」など、危険も伴う火の教え方にとまどう方も多いかもしれません。
子どもの個性によってデビュー時期はさまざまですが、「KIDSキッチン」のような場所を利用するのもいいきっかけになると智代子さんは感じたそうです。
「先生や他の参加者の皆さんなど、集団の中で取り組む中で本人にも緊張感が芽生えたようです。それに自分の作った料理を褒めてもらうことで自信もつきます。こういう経験が成長につながるのではないでしょうか」
子どもだけではなく、保護者の方のこういった発見を促すことも親子料理教室の狙いです。企画の池田さんも「家庭で料理を作るのも食育です。保護者の皆さんには子どもから調理の機会を遠ざけるのではなく、積極的に関わるような教え方を学んでいただければ」と考えています。
西部ガスのテーマでもある『食を中心とした幸せで豊かな生活』を実現するために、子どもを通した家族全体の学びを与えてくれる食育講座。
自分で作ったご飯を食べながら微笑みあう参加者の皆さんの姿が、何よりも食育と火育の大切さを教えてくれました。