2021.06.18
働きやすさって何だろう。社員の「声」に耳を傾ける、西部ガスの風土改革
近年、ニュースなどでもよく耳にする「働き方改革」。重要な経営課題のひとつとして多くの企業に認知されてきましたが、単に残業時間を減らすだけでは改革が成功したとは言えません。時間外労働が減ることの利点を生かすためには、新たな価値創造につながる労働環境の改善と社員の意識を変えることも必要だと言われています。
西部ガスグループも、この「働き方改革」を企業価値向上のための大切な要素として捉え、社員の働きがい向上に繋がる様々な取り組みを実践してきました。いったいどんな挑戦が行われ、どんな成果が生まれているのか。社員の活躍促進に向けて環境づくりを進める西部ガスホールディングス・人財戦略部のお二人にお話を伺いながら、本当の意味での「働きやすさ」について探っていきます。
まずは基盤づくり。ワークライフバランスの実現に着手
常に人と向き合う仕事だけあって、誠実で話しやすい雰囲気を持つ寺地さんと吉冨さん。西部ガスの人事労政部を経て、2021年4月からは新たなグループ体制への移行に伴い、西部ガスホールディングス・人財戦略部の一員となりました。
チームを先導するマネジャーである寺地さんは、人事として約10年間、労務政策に関わる制度や方針の策定に携わってこられた方です。
「西部ガスが働き方の見直しに着手したのは世間よりも少しだけ早く、2011年に遡ります。ワークライフバランスが提唱され社会に拡がりだした頃で、当社でも根本的な働き方の見直しの必要性を感じていました。そこで、業務効率化や生産性向上への取り組みとして、『しごとRe:フォーム推進活動』が開始されました」。
ガス・電力の自由化による競争激化などを背景に、当時は社員の時間外労働が増加していたといいます。まずは業務を棚卸して可視化し、その内容やプロセスを見直すことからはじめていきました。「特徴的だったのは、この活動が人事部門だけではなく経営層も含めた全社的な取り組みとして行われたことです。組織横断的な試みを5年ほど継続した結果、時間外労働を26%削減することができました」。
効果と課題を明確に。意識を"見える化"して次の打ち手を考える
しかし、残業を減らすことだけが働き方の改善ではない。そう捉えていた寺地さんたちは、「しごとRe:フォーム推進活動」の次のステップとして、ICTを活用したを取り組みに着手します。テレワークを試行導入し、特にモバイルワークを通じて営業の生産性を上げる試みを進めていきました。
「そうしてさまざまな施策にトライしていきましたが、それらがいったいどのような効果をもたらしたのか。さらに改善を図るための次の打ち手はいったい何なのか。そこを明確にするには、根拠となるエビデンスやデータを取ることが必要だとあらためて考えるようになりました」。
そこで2019年、社員一人ひとりの生産性意識を"見える化"し、課題を抽出するための「生産性サーベイ」を実施。この調査結果と、定期的に行ってきた「ES サーベイ(従業員満足度調査)」のデータを組み合わせて分析を行ったのです。
そこから見えてきたのは、社員の生産性が非常に高いという嬉しい成果。一方で、浮かび上がってきたのが、①働き方許容性の年代によるギャップ ②若手の挑戦意欲の低さ という2つの課題でした。
「たとえばテレワークやサテライトオフィスなど、若手がさまざまなワークスタイルを実践しようとする中、40代以上では活用の度合いが低いなど、年代間でのギャップが見られました。また20代の挑戦意欲が低いのは、リーダーなど責任あるポジションを任される機会が少ない事が要因ではないかと分かったんです」。
互いの働き方や意欲を認め合う土壌を培うべく、テレワークやICTを活用したスマートワークの本格導入を実施。キャリア世代にも浸透を図ろうとしていた矢先、新型コロナ感染症が拡大しました。多くの社員が在宅勤務を余儀なくされることで、奇しくも、ニューノーマルな働き方が浸透していったのです。
また、若手の挑戦意欲について、自身も20代の当該者である吉冨さんはこう話します。
「若手の中では『こんなことをやってみたい』という話はよくしていましたし、意欲が低いというより、意見を提案する機会や環境が足りないのではないかと思いました」
そこから生まれたのが、3年目の若手が研修の総仕上げとして、今後のキャリアについて上司にプレゼンする「キャリアアクションピッチ」。「自分はどうありたいか」を内省し、自己開示して意思を表示する場の創出でした。きちんと言葉にすることで責任感が生まれ、意欲の顕在化へも繋がっていったのです。
枠を外したらアイデアがあふれた。大切なのは生む力と受け入れる姿勢
若手の意欲が引き出されたもうひとつの事例として注目したいのが、人事部門の中で生まれた「若手ワーキング」。吉冨さんをはじめ10名ほどのメンバーが集まり、新しい取り組みを議論する場を設け、いろんなアイデアを出し合うというものでした。
「人事の仕事も今、時代の流れと共に変化しつつあります。経験値や勘だけでなく、システムによる可視化やデータに基づく分析など、高度化してきていると感じていました。当社はガス会社として安心・安定を守りながら、新規事業にも着手している。そういう流れを人事でも意識しつつ、むしろリードしていきたいと思ったんです」と吉冨さん。
自由な意見が飛び交うフリーディスカッションの場。「オフィスって静かだけど、音楽があってもいいよね」「どうしてスーツにこだわる必要があるんだろう」など、若手ならではの視点で次々と疑問やアイデアが書き留められていきました。最終的には、「タレントマネジメント」「学びや教育」「柔軟な働き方」という3つのテーマに分類し、管理職に向けてプレゼンを行ったそう。
「前向きに受け止めてくださって、弱い部分についてはしっかりフィードバックをもらえました。実現できるように協力していく、という言葉をいただけたことが本当に嬉しく、ありがたかったです」と吉冨さん。
プレゼンを受ける側だった寺地さんも、「いろんなアイデアが生まれたことが嬉しかった」と話します。「部門のトップが聞く耳を立て、スタッフに自由度や裁量を持たせることがとても重要だと感じました。それは若手に限ってではなく、世代を越えてさまざまな声を拾うということ。その根底にあるのは、多様性を受け入れる姿勢だと思います」。
西部ガスが推進するD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)が形となったひとつの実例。アイデアを生む力とそれを受け入れる姿勢が揃った時、イノベーションが生まれることを実感できます。
ルールがないのがルール。自由な服装がもたらしたもの
生産性サーベイの結果や若手ワーキングでの提案を背景に、2020年5月に導入され、一時社内をざわつかせた新しい試みがあります。毎週金曜に自由な装いを推奨する「カジュアルフライデー」の実施でした。
「職場にとっては唐突感もあったとは思います(笑)。でも、話題のひとつにはなりますし、人の違う側面を見ることによって、職場が明るくなることも期待していました。悩みながらもあえてドレスコードのルールを作らずに、肩肘張らずやってみようということになったんです」と寺地さん。
スタートから約1年。カジュアルフライデーを取り入れたことで、現場に変化はあったのでしょうか...?そこで、金曜日のオフィスを覗き、従業員のリアルな声を拾ってみました。
お1人目は、都市リビング開発部マネジャーの縣 隆歳さん。営業職・企画職として社外の方との接点も多いお仕事です。
「もともと個人的に興味があったので、当初から抵抗はなかったです。ただしお客さまとお会いしたり、外での打ち合わせの機会も多いので、TPOは意識しながらビジネスカジュアルを取り入れるようにしています。振り切ってはいないですけど(笑)、その中で個性を出すようにしていますね。外部の方からも概ね好評ですし、アイデアを発散させたい場面や、少し敷居を下げたい場面などではカジュアルな装いの方が効果的。服装がもたらす影響は少なからずあると思います」。
続いては入社5年目、法人リビング開発部に所属する営業職の小林夕輝さんです。開口一番、「私としては大賛成です!」とフレッシュな笑顔を見せてくれました。
「自分の働き方にあわせてリラックスした状態で働けるので、仕事の生産性があがったと感じています。なにより金曜の朝に洋服を選ぶのが楽しくなりました。普段の業務で関わりのない方とも、ファッションを切り口に会話が生まれる機会が増えたし、上司に対しても親近感がわいて話しかけやすくなったんですよ。エネルギー業界と聞いて堅苦しい印象を持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、カジュアルフライデーを取り入れている明るい社風が、イメージの変化に繋がればいいなと思います」。
最後は、人財戦略部の西 秀仁さん。若手ワーキングメンバーの1人としてカジュアルフライデーを提案したご本人です。
「服装を自由にするというのも、多様性を受け入れるアクションのひとつだと思います。仕事以外の面でもコミュニケーションが生まれるきっかけになり、新しいものを生み出す機会に繋がっていけば嬉しいですね。当初は戸惑う人もいたようですが、今ではすっかり定着してきました。それには、道永社長が自ら率先して実践し、楽しんでいる様子を社内に発信してくださったことも大きいと思います。お互いを認め合い、働き方を風土から変えていくための施策のひとつとして、今後も継続していきたいですね」。
福岡地区の事業所では金曜がノー残業デーということで、それも合わせてオフィスにはウキウキと明るい雰囲気が漂っている様子。こうした日々の業務の中でのメリハリやアクセントも、スタッフのモチベーションにいい影響を与えているようです。
誰もが働きやすいと感じられるグループ企業を目指して
働きやすい職場とは、能力や個性を活かしながら意欲を持って輝ける場所。そして互いに認め合い、刺激しあい、成長したいと思える場所。そう思えるような環境を整え、仕事のパフォーマンスを高める好循環を生み出していくのが、「働き方改革」の本質なのかもしれません。
吉冨さんは、「私自身、改革を通じて働き方の選択肢が増えたと感じています。テレワークやフレックスタイムを活用して、仕事とプライベートの両立もしやすくなりました。その分、『何時までにこの仕事を終わらせよう』など、効率的に仕事を進めるため、自律的に働く意識が生まれたと思います」と振り返ります。
さらに今後は、グループ全体の人財戦略に向けて、改革のフィールドを拡大していくことになります。
「グループとなれば、また違う視点が必要になると思います。各社の置かれている環境は業態によっても全然違いますし、一律的にこの施策を打てばよいというのではありません。労働時間管理などルールを守る基盤を作った上で、それぞれに適した社員のエンゲージメントを高める取り組みを拡げていけたらと考えています。経験や勘だけに頼らず、システムやデータを活用することも当然必要。デジタルの促進で、いろんな情報連携が楽になりますし、オンライン化もやりやすくなるので、社内の好事例を共有し、グループ全体の活力につなげていきたいですね」。寺地さんの挑戦のカタチも、日々変化しつづけています。
グループ人財の育成と活躍を促進する環境づくりで、もっと多くの笑顔を増やしていく。働きやすく、働きたいと思える会社が増えることは、社会全体の価値向上にも繋がっていきそうです。
西部ガスホールディングス株式会社
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