歴史を受け継ぐために進化する。『マルタイ』が挑んだ新時代の「BO-RAMEN」

2021.07.30

歴史を受け継ぐために進化する。『マルタイ』が挑んだ新時代の「BO-RAMEN」

九州人なら誰もが知る『マルタイ』の棒ラーメン。「食堂で食べるラーメンの味を家庭でも」というコンセプトで1959年に誕生し、60年以上に渡って愛され続けているロングセラーの即席麺です。何よりも特徴は独自に開発した棒状の麺。この麺のおいしさを、そしてマルタイの実力をもっと多くの人に知ってもらいたいという想いから、若手が中心となって取り組んだ商品開発プロジェクトがありました。味はもちろんパッケージデザインから販売手法まで、これまでのインスタントラーメンの既成概念を打ち破る発想で生まれた「BO-RAMEN」。開発に携わった石川さん、森本さんと共に、完成までの軌跡を振り返ります。

株式会社マルタイ 「BO-RAMEN」開発プロジェクトリーダーの石川大介さん(右)とサブリーダーの森本豪介さん(左)

世代を越えて愛され続けるのには理由がある

看板商品である「棒ラーメン」をはじめ、カップめん「長崎ちゃんぽん」や揚げめん「長崎皿うどん」など、九州育ちの人にとっては特に身近な存在の、マルタイのベストセラーたち。そのほかにも長い歴史の中で次々と新商品が世に送り出され、現在ではプライベートブランドも含めると約130ものラインナップがあります。
経営戦略部と物流改革プロジェクト室で主任を務める長崎出身の森本さんも、小さい頃からマルタイの味に慣れ親しんできたファンのひとり。「マルタイの商品は棒ラーメンや皿うどんなど、いろんな具材と合わせられるシンプルさが強みだと思います。そのまま食べてもいいし、アレンジの幅も広い。カップ麺も王道というより、ほかの企業にはない九州のメーカーらしい個性豊かな商品が揃っています」。
福岡出身の石川さんは、商品開発部で係長として味の研究にいそしむ商品開発のエキスパート。「マルタイのこだわりでもあるノンフライ・ノンスチーム製法の麺は、ほかの即席麺と比べ低カロリーで、お店で食べるような生麺に近い風味が特徴です。僕自身が食べてきた棒ラーメンを、今は子どもにも受け継いでいますし、間違いなく世代を越えて愛される商品だと実感しています」。
手頃な価格と、鍋ひとつで作れる手軽さも魅力。昨年はコロナ禍の巣ごもり消費やアウトドアでの需要が高まり、棒ラーメンの売り上げは大きく伸びたそう。昔ながらの味が、今も変わらず親しまれ続けているのです。

福岡市西区にあるマルタイ本社のエントランスには同社商品が展示されています。どれも見たことがあるものばかりで、懐かしさと安心感を覚えます

もっと多くの人にこの味を届けたい。若手社員が挑んだ次の一手

かつて営業を担当していたことがあるという森本さん。「"味"のマルタイというだけあって、自社の商品のクオリティには自信があります。営業先でも"うちの商品おいしいでしょう"と胸を張って言っていました。一方で、九州での知名度は高いものの、全国的にはまだマルタイのことを知らない人たちがたくさんいます。このおいしさを、もっと多くの人に知ってもらいたいという想いは常にありましたね」。
会社としても、次の時代を見据えて取り組むべき課題がありました。拡大していくEC需要を踏まえたオンライン事業への参入です。「せっかく着手するのであれば、話題になるような新しい試みにチャレンジしてはどうだろう」。そんな着想から、新たな層へのアプローチ方法として挙がったのが、クラウドファンディングを活用した新商品の開発企画でした。
プロジェクトメンバーに選ばれたのは20~30代の社員たち。若手ならではの視点を活かし、これまでにない大胆な発想が求められる大きな挑戦です。「最初は躊躇しました(笑)」とリーダーを任された石川さん。「でも、商品を一から作り上げるという経験はみんなにとっても貴重なはず。従来のマルタイファンだけでなく、 Web利用者層にもガツンと響くような、新時代の商品を目指そうとメンバー一丸となって挑みました」。

マルタイの職場の雰囲気は、各部署が少人数体制で、若手でも意見を求められることが多いそう。「上司にも相談しやすい環境でアットホーム感がありますね」と森本さん

飾っても、映える。今までにないラーメンを目指して

新しいモノを生み出す時には、どんな人に届けたいかを具体化することも大切です。マルタイでは、2018年に企業認知度のアンケートを実施、特に関東圏に住む20代男性へのリーチが弱いことが分かっていました。そこでこの層をコアターゲットに設定し、例えばどんな街のどんな部屋に住んでいて、どんな家具を揃えているかなど、ライフスタイルから趣味嗜好までを細かく描きながら、ターゲット層が欲しいと思える商品のアイデアを膨らませていったのです。
「アイデア出しのステップでは、"既成概念にとらわれない"をテーマに、デザインシンキング(※)という手法を取り入れました。いろいろな発想が飛び交いましたが、最終的に、"生活感が出ないラーメン"というコンセプトで進めることにしました」。
従来のラーメンのパッケージは調理例の写真が載っているなど、見るからに「即席麺」感があり、生活感がでてしまうため、なんとなく見えないところにストックしておく人が多いと思います。「では逆に、飾りたくなるラーメンとは?」。 そうしてメンバーで協議するなかで出たアイデアが、オシャレな本型のパッケージ。高級スーパーのレトルトカレーの陳列棚にヒントを得たのだそう。しかも並べた時の満足感を考えた5色展開にし、色のイメージに合わせた棒ラーメンを創作することに決まりました。

※デザインシンキング...ユーザーも気づかない本質的なニーズを見つけ、変革させるイノベーション思考

森本さんが仕事でやり甲斐を感じるのは、自分で提案したアイデアや意見が採用された時だそう。「そういう場や機会を多く作っていけるように意識しています」。

そしてここからは、味の開発担当である石川さんの腕の見せどころ。
「まずみんなで、"この色ならこういう味がいいのでは"という意見を出し合っていきました。黄色ならカレー...だと定番すぎるし、それならチーズはどうだろう、という具合に」。挙がったイメージを石川さんが具現化し、チームで試食を行いながら何度も改良を重ねていったそう。そしてようやく出来上がったのが、博多とんこつ(白)、担々まぜそば(赤)、チーズ豚骨(黄)、鶏白湯(緑)、そして珍しい青とんこつ(青)という、5色のラインナップでした。
「麺は既存の棒ラーメンと同じものを使いました。さらに本格的な味わいを追求すべく、粉末スープと液体スープのWスープを取り入れたり、こだわりの具材をセットにしたり、プラスαを生み出す工夫を凝らしています」。
プロジェクトメンバーの想いが詰まったこの「BO-RAMEN」は、まさに棒ラーメンの進化系。スープと具材の変化によって麺の完成度と受容性の高さも再発見できる、マルタイならではの新作となりました。

「昔からものづくりが好きなんです。自分が考えた配合でイメージ通りの味になった時は、『やった!』って思いますね」と石川さん。

マーケティング素材としての活用も図れる、クラウドファンディングの可能性

この「BO-RAMEN」の販売方法として選んだのが、『Makuake』というクラウドファンディングサービス。棒ラーメンの日である2020年11月11日(※)にプロジェクトを公開し、呼びかけがスタートしました。サポーターへのリターンはもちろん「BO-RAMEN」です。
それまで ECサイトで商品を購入した経験が少なかったという森本さんと石川さんも、毎日動向をチェック。「『Makuake』上には他社のユニークな商品も多くて、つい購入しちゃいましたね。消費者心理がわかりました(笑)」と森本さん。
Twitterでのキャンペーンなども展開し、反響は上々。2カ月を経て、応援購入いただいた総セット数は1,302セット(食数6,510食)、トータル500万円以上の資金が集まり、目標を大きく超える結果となったのです。
「本当に嬉しかったですね。サポートしてくださった方は約2/3が関東の方で、約6割が男性でした。『Makuake』のユーザーは40代男性が多いそうなのですが、比較的若い方にも支持いただいたと聞いています。また、サイトを見た方々がSNSで拡散してくれるなどの副次的な効果もあり、棒ラーメンの認知度拡大にも貢献してくれたと思います」と、オンライン販売のメリットを実感できたと言う森本さん。

クラウドファンディングの紹介ページでは、写真や文章にもこだわったそう

石川さんが驚いたのは、長年の棒ラーメンファンからの支援が予想を超えて大きかったこと。
「新ターゲットに向けて開発した商品でしたが、コメント欄を見ると『昔からマルタイが大好きです』や『ずっと応援しています』といった声がたくさんありました。私は開発の立場で、普段はなかなか消費者の方々の声を直接聞くことができないのですが、温かいメッセージがとても励みになりましたね」。
寄せられた応援の言葉は、プロジェクトメンバーの自信となり、日常の仕事への遣り甲斐にも繋がっていったそう。同時に、積み上げてきた歴史の大きさを実感することができたと言います。

「BO-RAMEN」は、クラウドファンディングのリターン限定商品のため、残念ながら小売店での販売はありません

普遍的な存在感を守るため、これからも挑戦を続けていく

何かを乗り越えて得た達成感は、次への意欲を生み出します。

「オンライン販売の可能性を実感できたので、今後はマルタイのWeb事業の在り方について検討を進めたいです。これからも"味のマルタイ"を愛し続けてもらうために、次の時代へおいしさを伝えていく使命を感じています」(森本さん)
「現在の手頃な商品に加えて、クオリティの高い本格志向の商品のシリーズ開発も手掛けられたらいいですね。そしてマルタイの味を日本全国、さらに海外にも広めていきたいです」(石川さん)

若い感性で伝統に新しい風を吹き込んだ、新商品プロジェクト。それは、歴史に甘んじることなくたゆまぬ努力で挑戦し続ける、マルタイの企業姿勢の表れとも言えそうです。若い力が推進する今後のマルタイのWeb戦略に期待が高まります。ますます親しみを深めながら、これからも「食べて応援」していきたいですね。

(※)実は昨年(2020年)、このプロジェクトが公開された11月11日が「棒ラーメンの日」として日本記念日協会より正式認定されたのだそう。おめでとうございます!

株式会社 マルタイ

〒819-0193 福岡県福岡市西区今宿青木1042-1
TEL:092-807-0711(代表)

HP:http://www.marutai.co.jp/