コウケンテツ×SDGs SDGsをブームで終わらせないため家庭と企業が共に未来を築くには(前編)

2021.08.27

コウケンテツ×SDGs
SDGsをブームで終わらせないため家庭と企業が共に未来を築くには(前編)

皆さんは、未来の地球について思い描いたことはありますか?
例えば10年後、私たちは何を食べて、どんな暮らしを送っているのでしょう。
誰もが自分らしく、幸せに暮らすために、地球上に住む全ての人が取り組むべき国際的目標が定められました。それが、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す「SDGs」です。その内容は17のゴールと169ものターゲットが設定されていて、環境から働き方、ジェンダーなどさまざまな分野に及んでいます。一見すると複雑で難しいように思えますが、普段の生活の中で取り組めることもたくさんあります。
そこで、今回は料理研究家のコウケンテツさんと、以前「コウケンテツ×福岡の食と人」シリーズに登場いただいた食のプロ、株式会社スピリッツオブマイスターの中村一善さん、ドクターフーヅ株式会社の満屋香織さん、株式会社ベストサプライの小田代勇樹さん、株式会社八仙閣の塚本光穂さんが集結。
暮らしに一番身近な"食"を通して、私たちにもできるSDGsを考えます。

コウケンテツ

コウケンテツ

出身は大阪府、現在は東京都在住。旬の素材を生かした手軽でおいしい家庭料理を提案し、テレビや雑誌、講演会など多方面で活躍。30か国以上の国を旅して世界の家庭料理を学ぶ。3児の父親としての経験をもとに、親子での食育、家族の家事シェア推進にも力を入れている。また、テレビやYouTubeではゴミを出さない調理法を取り上げるなど、家庭内のSDGsに対する活動も紹介している。

近著は「本当はごはんを作るのが好きなのに、しんどくなった人たちへ」(ぴあ)、「アジアの台所に立つとすべてがゆるされる気がした」(新泉社)

YouTube公式チャンネル「Koh Kentetsu Kitchen」
https://www.youtube.com/channel/UC3p5OTQsMEnmZktWUkw_Y0A

インスタグラム
https://www.instagram.com/kohkentetsu/?hl=ja

株式会社ベストサプライ 小田代勇樹 (おだしろ ゆうき)

シャケやサバといった大衆魚から九州産の原料に拘った生食冷凍商材まで、現代の食生活のニーズに合わせた高品質の水産加工事業を展開する「ベストサプライ」の営業マネージャー。
会社全体でフードロスやゴミ削減といった海の資源を守る対策を続けているほか、FSSC22000の取得を目指すなど食の安全に対しても厳しい基準で取り組んでいる。
https://www.sg-bestsupply.com/

小田代さんが登場した対談はこちら
https://hd.saibugas.co.jp/new_lifelab/324.html

株式会社スピリッツオブマイスター 中村 一善(なかむら かずよし)

福岡を中心とする有名シェフが人材を育成する専門校「スピリッツオブマイスター」代表。就学が厳しい生徒には金銭面のサポートをするなど、学生支援にも力を入れている。最近では、「英会話料理教室」や第一次産業(農業・漁業など)とのコラボレーションも行う。
http://www.meister-gate.jp/

中村さんが登場した対談はこちら
https://hd.saibugas.co.jp/new_lifelab/331.html

ドクターフーヅ株式会社 満屋 香織(みつや かおり)

管理栄養士として、西部ガスグループの社員食堂「火と人」に立ち上げから参加し、スマートミール外食部門九州初の3つ星認証取得。さらに、グループ企業の介護福祉施設で提供する食形態やイベントなども考案する。現在はHACCPコーディネーター(JHTC)として、レストラン「八仙閣」の衛生管理やメニュー企画を進めている。食品ロスを軽減するための直接的な対策に加えて、コロナ禍で影響を受けた企業の商材活用、外国人労働者採用など、広い範囲での取り組みを行なっている。


満屋さんが登場した対談はこちら
https://hd.saibugas.co.jp/new_lifelab/326.html

株式会社八仙閣 塚本 光穂(つかもと みほ)

福岡で50年以上続く中華料理店「八仙閣」のレストラン事業部長で今宿店の店長。食材を無駄なく調理する中華料理の特性を活かしてフードロス対策に取り組む。今宿店では、地域の施設や生産者と連携し、留守家庭の子どもを対象とした「子ども食堂」をテイクアウトイベントとして実施。ここでもフードロス対策が導入されている。
https://www.8000.co.jp/


塚本さんが登場した対談はこちら
https://hd.saibugas.co.jp/new_lifelab/326.html

高まる安全基準が生む過剰廃棄を 自社工場でおいしく再利用

―コウケンテツさん(以下、コウ): SDGsって、今すごく話題になっていますよね。とても大切なことが提示されているんですけど、このまま一過性のブームで終わってしまうのではと危惧しています。消費者が企業の取り組みを知って商品を選んだり、消費者の意識が上がることで作り手が環境を考えた製品を作ったり、お互いにリンクしながら高めていくことで持続できるのではないでしょうか。
今回は、そのためのアイデアを皆さんと一緒に探っていければと思います。

―:コウ: まずは、それぞれの会社での取り組みを教えてください。
最初は、ベストサプライの小田代さんからお願いします。ベストサプライさんだと、やはり「海の豊かさを守ろう」が第一なんでしょうか?

―ベストサプライ小田代勇樹さん(以下、小田代): そうですね。世界的に水産資源の減少、水域環境の悪化、乱獲などが問題になっていますので、業界全体で自然環境の保護に取り組んでいます。
会社としては、「つくる責任、つかう責任」も重要ですね。厳しい製造基準を取得して食品ロスやゴミの削減を進めています。例えばサバの加工で発生する残滓を豚の飼料にする廃棄物の有機物化とか。

―小田代: あとは、コレ(写真)ですね。
品質上は問題ないのに廃棄される商品ってたくさんあるんですよ。これは寿司ネタに使うサーモンなんですけど、20トンもの量が廃棄される予定だったんです。理由は、コロナ禍で税関の許可や加工に以前より時間がかかってしまい、ほんの少しだけ変色してしまったから。でも食べても安全で味も遜色ないレベルなんです。もったいないのでうちで買い上げて、博多の老舗ジョーキュウ醤油のゴマだれと合わせて「サーモン漬け」にしたんですよ。これだとご飯にのせるだけで手軽に食べられるし、冷凍しているので保存もできる。

左が変色したというサーモン。実際に見てもほとんどわからない。
右はゴマが香ばしい漬けダレで加工した商品。子どもが興味を持つようにパッケージもポップなデザインにする工夫も

―コウ: 世の中的にいかに食品ロスを無くすかという方向に向かっているので、非常に素敵な取り組みですね。でも、これって食品メーカーさんが抱える矛盾ですよね。消費者への安全神話を築くと、こうしたロスも出てしまうという。

―小田代: うちの主力販売先である量販店は、ロスを嫌いますし、クレームを避けるために色や形までとても厳しい基準があるんです。安全は大事ですが、食べても問題ないのにと、もどかしい日々です。

―コウ: それはシステムの問題なんでしょうか、それとも消費者の意識で変わってくるものなんですか?

―小田代: 消費者の意識でシステムも変わってくると思います。お店でも食品ロスは数字に直結するので、1日でも賞味期限を延ばしてくださいという要望をいただくんですね。でも、魚は劣化が早いし、食中毒の問題もあるのでそう簡単にできないんです。安全とロス削減のバランスは常に課題になっている状況です。

―コウ: サーモン漬けのように、地元のメーカーと一緒に新しい商品にリメイクする。
こういう動きが広がっていくといいですよね。

―小田代: 量販店ではなく、飲食店だと料理に使える場合もあるんですよ。例えば、サバでもおせちの昆布巻きの中に入れるとか、焼いてお弁当に入れれば問題ないよねと。売り先によって基準が違うので、もっと広く見ていくべきだと思います。

―スピリッツオブマイスター 中村一善さん(以下、中村): 福岡は「鯛茶漬け」とか「ごまさば」とか、こういうタレにつけた料理が多いので喜ばれそうですね。購入者もちゃんと商品を見極めて選ぶことができればいいですよね。

消費させない人材育成を目指して 世界につながる教育を子どもたちへ

―コウ: 買う側の意識も変われば大きな解決に向かうかもしれないということですね。
中村さんの「スピリッツオブマイスター」では、料理の教育をされていますが、そこにもつながるのではないでしょうか。

―中村: そうですね。料理学校は、SDGsに対していろいろな関わりができるなという印象です。「エシカルフード(※)」という考え方もSDGsですし、料理を学べば、化学調味料や添加物を使わなくてもおいしいものを提供できます。それを生徒が身に付けて家庭で実践することで社会に広がるでしょう。
そもそも、大量生産・大量消費されるのは商品ばかりじゃなくて人材に対しても言えると思うんです。昔は徒弟制度などで技術がしっかりと継承されていたけれど、今の専門学校は現場に即した育成とは言えない。そう考えると、「スピリッツオブマイスター」で今までやってきたことって、SDGsにもつながっていたんだと改めて感じました。今後は、経済的なハードルが高くて夢を諦めざるを得ない生徒までフォローしながら、人材を業界へつなげていきたいと考えています。
あと、子どもや女性向けに「英会話料理教室」をやっておりまして、海外への興味を抱いて広い視野を持つ人材の育成にも取り組んでいます。そういう子どもたちが世の中を変えてくれる基盤になるような気がします。

※エシカルフード
環境や人・社会、健康などに配慮した食品や料理。身近な例では、生産者の暮らし改善や自立の実現、環境保護を目指すフェアトレード商品、地元で生産した食材を地元で消費する地産地消、農薬や化学肥料を使わないオーガニック商品などがある。

―コウ: フラットに考えることができる人材育成ですよね。“食”は世界中でつながっているはずなのに、日本の飲食業界はまだ閉鎖的な気がします。SDGsの考えで、業界の壁って取っ払うことができるのではないでしょうか。

―中村: おっしゃる通りで、この業界はかなりコンパクトにまとまっている現状なんですけど、それでも世界に目を向ける子は増えてきたようです。今までは正直SDGsに対して意識していたわけではないですが、大人がきっかけ作りをしてあげれば全然変わってくると思うんですよ。
だから、今は学校内だけではなく、外部での活動も始めています。今年の10月には「環境フェスティバルふくおか2021」というイベントに参加を予定しているんです。SDGsを若い人に知ってもらおうという取り組みなのですが、そういった積み重ねが大事だと思っています。

―コウ: なるほど、子どもたちの教育がそのまま未来への資源につながっていると。
家庭でできるSDGsを考えるヒントになりそうですよね。

安全性と食品ロスの矛盾、グローバルな人材育成への挑戦…。食のプロがそれぞれの視点で行うSDGsの取り組みを通して、業界が抱える課題がよりくっきりと浮かび上がってきたように感じます。
引き続き、後編では「ドクターフーヅ」、「八仙閣」のアプローチをご紹介。企業の挑戦は、私たちに一体どんなヒントを与えてくれるのでしょうか。

コウケンテツ×SDGs
SDGsをブームで終わらせないため 家庭と企業が共に未来を築くには

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