2021.09.03
コウケンテツ×SDGs
SDGsをブームで終わらせないために家庭と企業が共に未来を築くには (後編)
最新技術とアイデアで 食を楽しむ環境を作る
―コウ: 続いて、西部ガスグループの社員食堂「火と人」の立ち上げにも関わられた「ドクターフーヅ」の満屋さんはいかがですか?
満屋さんの場合は、働く世代や高齢者の方が対象になりますよね。
―ドクターフーヅ 満屋香織さん(以下、満屋): そうですね。まずフードロス対策として、「火と人」では、注文を受けてから作る料理は一部だけで、メニューの多くは計画調理をしているんですよ。特殊な冷凍機を使っているので、それぞれの料理を1番美味しい状態でストックすることができる。オーダーを受けた際には再加熱して提供する仕組みです。こうすることで作りすぎて廃棄することも無いし、誰が提供しても同じ品質を保つことができます。栄養バランスのとれたスマートミールの提供もSDGsに関わりますよね。最近では、コロナ禍で影響を受けた企業の商材を使って期間限定メニューも出していますし、外国人労働者の方も一緒に働いてもらってます。
―満屋: それから、老人保健施設でムース食の改良も進めています。噛んだり、飲み込むことが難しくて普通の食事がとれない方へ、ムース食という舌で潰せる食事を提供するんですね。今までは、既製品の冷凍ムースを温めてお皿に出していたんです。でも、お隣の人がおいしそうなおかずを食べていたら、同じものを食べたいですよね。そこで、特殊なミキサーで料理をペースト状にして、シリコン型で固め、肉や魚の切り身の形を再現するんです。
そうすることで出汁や調味料を足さなくてもなめらかになるので、味も栄養価も普通の食事とほぼ同じものを提供できるんですよ。召し上がるご本人はもちろん、ご家族も一緒に食事を楽しんで頂けます。さらに驚いたのは、食事の介助をするスタッフからの声です。普段はなかなか食べない方も口を開けて待っているくらい、スムーズに完食できて嬉しかったと。こちらが想像もしていなかった評価でしたね。
―コウ: それはすごい!特許とか取ってないんですか!?全国の介護施設に広めないと。食欲って一番根本的な欲求じゃないですか。おいしいものを食べたいという欲求を叶えてくれるなんて、前回の座談会のお話からまた進化されてますよね。
―満屋: 実は、こういった研究をされている諸先生方にご教示頂いて進めていることなんです。実際やってみるとこんなに違うんだって驚きました。今は八仙閣にいるので、ここの料理もつなげることができたらいいですよね。普通は食べられない酢豚とか、絶対喜ばれるはず。
―小田代: それはすごい!メニューの幅もグッと広がりますね。
―中村: グループのバックボーンがあるから、いろんなコラボレーションができそうですね。
家庭の問題に地域で取り組む「子ども食堂」に挑戦!
―中村: でも、アイデアはあっても、余裕が無いといろいろな取り組みができないというのも本音ですよね。
―コウ: おっしゃる通り。余裕がないと新しいことができないというのは、コロナ禍でさらに明らかになりましたよね。今はどの業界の方も疲弊されているじゃないですか。そこでモチベーションを保つにはどうしたらいいのでしょうか。
八仙閣の塚本さんはどう思われますか?地元の方と協力して「子ども食堂」を予定しているとおっしゃっていましたよね?
―八仙閣 塚本光穂さん(以下、塚本): 「子ども食堂」のお話を頂いたのは地元の老人保健施設の方からなんです。その方達と「子どもに食事を提供する場を作りたい」という強い思いを共有することがエネルギーとなって動けたのかなと。もともと八仙閣には「地域で評判の良い会社を作ろう」という経営理念があるんですよ。飲食店というだけではなくて、地域との関わりを通して食の喜びを広めるという目的が根底にあるんです。そういうDNA が原動力になったのかも。
―塚本: 「子ども食堂」については、八仙閣の今宿店で実施しました。ここはすぐ近くに小学校があり、子どもたちの通学路になっているんですね。
老人保健施設の方と委員会を立ち上げて進めたのですが、スタート直後に新型コロナが流行してしまったので、まずは月一回おやつの肉まんを配りました。できるだけ温かいものを渡したいから、3時直前に蒸して発泡スチロールに詰めて、子どもたちの顔を見ながら手渡ししたんです。
前回の座談会でこの話をした時に皆さんから激励の言葉を頂いたので、「子ども食堂」を何としても実施せねばと思って。ようやく2020年10月に第一回目のテイクアウトのイベントを行いました。地域の自治協議会や老人保健施設の方、生産者の方からいただいた食材を八仙閣で調理してお弁当にして、留守家庭のお子さんに配布したんです。当日は長蛇の列で、用意していた分がものの30分で配布し終わりました。
その後、2021年3月にもう一度、今度は中華丼を配りました。2回目はなるべくたくさんのご家庭に行き届くように調整したのですが、やっぱり配布分は一時間でなくなってしまいましたね。
―コウ: 福岡の中華料理界のランドマーク的な八仙閣さんならではの取り組みですよね。地域との信頼関係があるから、うちの食材使ってよって協力してもらえる。
―塚本: それはあるかもしれませんね。第1回目の時は、農家の方にサツマイモをいただいたんですけど、それは小学校の生徒さんが芋掘りする予定で植えられたものだったそうです。コロナ禍で芋掘りが中止になって放置されていたサツマイモを掘って持ってきてくれて。「子ども食堂」はフードロスを減らすことにもつながるなと改めて気づきました。
あともう一つ、お母さんが調理する時間を減らして、その日だけでも家族でゆっくり食事をしてほしいという目的もあったんです。そのためにも困っている子ども達が自分から行きたいと思えるように参加呼びかけの内容から心を砕きました。
―コウ: 皆さんがそれぞれアクションを起こして盛り上げていく。九州ならではのホットな感じが嬉しいですね。"食"って思い出になるので、「あの時、八仙閣の中華丼をみんなで食べたよね」とか後に繋がるんですよ。最高の取り組みをされてますよね。
―塚本: ありがとうございます。定期的に継続するなら協力者にも負担になってしまうので、お声をかける農家さんや企業さんを毎回変えて、いろいろな所に支援を呼びかけるようにしています。
―中村: 私たちはグループ企業だから、組み合わせればいろんなものができると思うんですよ。スピリッツオブマイスターには料理、製菓、製パン、サービスのプロを目指している学生がいますし、皆さんも食材や設備をお持ちだし、使わない手は無いですよね。
―満屋: つながればすごいことができそうですよね。
―小田代: 自分の会社だけだと気付かないことも多いですよね。こうして違う視点を知って動きが広がっていくのが大事だと思います。人と人を繋ぐというか。
―コウ: これもコロナの功罪というか、業界同士で壁を取っ払わないと先に進めないからこそ、協力できる環境になってきたのかな。ライバル同士の企業がコロナで売り上げが低迷して業務提携に乗り出したなんて話もよく聞きますよね。そうじゃないとこれから乗り越えていけないのかなと思います。
家庭にはSDGsのタネがいっぱい 暮らしを見直して未来へつなごう
―コウ: 皆さんからいろいろな取り組みを聞かせていただきましたが、SDGsって家庭にこそ必要な話だと思うんですよ。
例えば、テレビ番組のフードロス対策でゴミを出さない調理法を紹介したのですが、それでも大した量は減らせないんですよね。問題なのは、"買いすぎ"ということなんですよ。どうして無駄に買ってしまうかと言えば、まず一つは特価だから。あとは、毎日買い物に行けなくて買いだめしちゃうからなんですよ。本当は、その日使うものだけを購入して消費すればいいんです。でも、ほとんどのご家庭はお母さんが買い物に行くでしょう。忙しいから毎日スーパーに通えないので、買いだめをせざるを得ないんです。
これってジェンダーの問題でもあるんですよ。さらに働き方も絡んでいますよね。お父さんが定時で会社を終えて帰りにスーパーで必要な分だけ買い物する。そんなルーティーンができれば、買いだめもしなくていいし、お母さんの時間も浮く。お父さんも売り場を通るから旬を覚えるでしょ。この時期はこの野菜が安いなとか、この食材でこんな料理ができるとか、家庭に対する目線も変わってくると思うんですよ。家庭でこそ、SDGsの課題が複雑に絡み合っているんですよね。
―中村: 前回も話題になったように、やはり男性がもっと料理を楽しむべきだと思います。老後のことを考えると、尚更ですね。作り出すと買い物もしますし、男性向けの料理教室というのも大事だなと。
―コウ: そうなんですよ。男性だけではなくて、家族みんなが料理を作るという環境を目指さないと。
―中村: SDGsを考えると、今までの文化を変える必要がありますよね。
―コウ: 変えていくべきもの、残していくべきものがあるんですよね。そういう意味では、魚食は残すべきだと思うんですよ。僕はYouTubeで料理をやっているんですけど、魚のレシピの回の人気がイマイチで...。
―小田代: 実は YouTube を見させてもらっていたのですが、「初めて知りました」とか「こんな簡単にできるんですか」といったコメントが多い。魚料理の作り方を知らない人が増えているんです。
実は、この時期にいるはずのない魚や違う海域の魚が獲れることも多くて、昔みたいな旬というものが無くなってきています。せっかく水揚げされても、これまで身近にいなかった魚は、食べ方がわからないから売れないんです。
―塚本: 売れない魚はどうされているんですか?
―小田代: 輸出する会社もあり、加工品の原料として冷凍保存する会社もあります。今は冷凍技術が進歩しているので、鮮度を保ったまま保存ができるんです。
だから、一年中手に入る。売ってる人も旬がわからないぐらいですからね。
―コウ: 改めて環境ですよね。学ぶにしろ、食べるにしろ。僕はお家で料理を作ることを提唱するのが仕事なんですけど、もっと企業の意識を家庭や地域に向けることができないかなと。企業と家庭がうまくリンクできれば、SDGsがブームじゃなくて文化として根付くのではないでしょうか。
だからこそ、皆さんが地域や家庭に働きかけている取り組みは未来にも繋がっている気がします。
―満屋: 家庭といえば、うちの小学生の息子にもSDGsについて聞いてみたんですよ。そうしたら、スラスラと自分の言葉で説明してくれたのでとても驚きました。学校で授業があったんですって。フードロスやゴミ分別の目的などをよく知っているし、子どもの方が詳しいみたいです。
―コウ: 子どもの方が直感的に分かると言うか、我々大人の方が慣習や思い込みで判断しているのかもしれないですね。
SDGsって項目が多くて大仰なものっていうイメージがあったんですけど、各分野の皆さんのお話を聞いてかなりクリアになった気がします。目指していくところがみんな同じなんですよね。
全ては「未来の子ども達に安心できる社会を残す」ということに集約される。
そうすると、業界の垣根を取っ払ったり、世の中を変える原動力が湧いてくる気がします。力強い皆さんの言葉を聞いて安心感が生まれました。
―コウ: 子どもの方が直感的に分かると言うか、我々大人の方が慣習や思い込みで判断しているのかもしれないですね。
SDGsって項目が多くて大仰なものっていうイメージがあったんですけど、各分野の皆さんのお話を聞いてかなりクリアになった気がします。目指していくところがみんな同じなんですよね。
全ては「未来の子ども達に安心できる社会を残す」ということに集約される。
そうすると、業界の垣根を取っ払ったり、世の中を変える原動力が湧いてくる気がします。力強い皆さんの言葉を聞いて安心感が生まれました。
さまざまな"食のプロ"としてのアプローチから、魚食、家庭環境、そして子どもの未来へ。入り口は違っても次々と前向きな意見が飛び出したのは、皆さんが見つめる方向が一致しているからこそと思います。コウさんの言葉にあったように、「未来の子ども達に安心できる社会を残す」というビジョンは、家庭内でSDGsを考える時にも当てはまることではないでしょうか。
皆さんも今日の夕食の時、家族そろって食卓を囲みSDGsについて会話してみてはいかがでしょうか?
コウケンテツ×SDGs
SDGsをブームで終わらせないため 家庭と企業が共に未来を築くには