空模様を読み解けば、暮らしはもっと便利になる 気象予報士・佐藤栄作さんに聞く天気予報の使い方

2021.09.24

空模様を読み解けば、暮らしはもっと便利になる
気象予報士・佐藤栄作さんに聞く天気予報の使い方

一年を通して私たちの日常に深く関わっている天気予報。毎日チェックしているけれど、傘の有無やコーディネートを決めるときに参考にする程度、なんていう人も多いのではないでしょうか? 実は、天気予報で得られる情報の中には、暮らしに役立つヒントがたくさん隠されているんですって。 そこで今回は、朝の情報番組でおなじみの気象予報士・佐藤栄作さんのもとへ。 「プライベートでも天気予報をもとに行動しています」という栄作さんに、天気予報のイロハと日常での活用法を教えてもらいました。

陸上、海上、宇宙からあらゆる情報を。多様なデータを駆使して決まる天気予報

「ネコが顔を洗うと雨」や「暑さ寒さも彼岸まで」など、天気にまつわることわざがたくさんあるように、古来の人々は自分の目や耳、感覚で天気を予測していました。その後1875年(明治8年)に東京気象台が設立され、観測に基づく天気や地震の情報が公表されるようになったのだそうです。
現在では、全国約1,300ヵ所(※1)に設置されている「アメダス」や気象衛星「ひまわり」、観測レーダー、スーパーコンピューターによる数値予測など、さまざまな気象観測システムが稼働しています。そこから抽出された降水量や風、気温、日射量といったデータをもとに、天気予報は導き出されています。

天気予報を行うには特別な資格が必要です。高度な予測データを適切に利用できる技術者として国家資格にもなっています。合格率5%程度の試験に合格し、気象庁の登録を受けた天気予報のプロが「気象予報士」で、全国に約11,000人います。しかし、天気予報は社会全体にさまざまな影響をもたらすため、たとえ「気象予報士」の資格を持っていたとしても勝手に独自の予報を発表することはできません。さらに、気象庁の「予報業務許可」を受ける必要があるんです。
ちなみに、日本国内で予報業務許可(気象・波浪)を取得している企業はわずか84社で、福岡県内には3社のみ。(※2)そのうちの一つが、栄作さんが代表を務める「(株)風見屋」です。

※1 降水量のみ観測するものも含む。気象庁「地域気象観測システム(アメダス)観測網」参照
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/amedas/kaisetsu.html
※2 予報業務の許可事業者一覧(気象・波浪)参照
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan.html#175

災害級の天候は前もっての予測が困難。だからこそ、日頃から"五感"を養って

もともと栄作さんは、埼玉出身で日産自動車のエンジニアをしていたそうです。仕事のつながりで気象予報士の資格を受験し、合格したのを機に民間の気象情報会社「(株)ウェザーニューズ」に転職。その後「気象予報士として、九州の台風と大雨を体感したい」と福岡へ。以来20年以上、九州の天気と向き合っています。

テレビなどのお天気情報は、気象庁発表のデータをほぼそのまま伝えることが通例です。でも、栄作さんは、出演中の番組前に国内外の観測データを取り寄せて独自で分析。エリアの特徴をおさえたオリジナルの予報を届けています。こんな風に自分で予報を出すキャスターは全国でも数えるほどしかいないんですって。

― 九州ならではの天気の特徴って、一体どのようなものがあるのでしょうか?

栄作さん やっぱり九州は大雨と台風ですね。こっちに来た最初の年に、まず雨粒の大きさに驚きました。地球温暖化の影響で、九州は海水温が高いんですよ。特に東シナ海の温度が高いことが、西日本に大雨を呼ぶ一番の原因だと私は思っています。といっても、今や大雨災害は全国的に言えることなんですけどね。

― 最近はことさら大雨や台風の被害が多いように感じます。これからも災害は増えるのでしょうか?

栄作さん そうですね。地球温暖化が進んでしまっているので、すぐに改善されることはないと思います。海は水ですから、空気(地表)より温まりにくく冷めにくいんですよ。例えば、今9月でしょう。地上の温度はどんどん下がりますが、海はこれからが一番温かい時期なんですよ。だから今年が地球温暖化のピークだとして、そこから下がったとしても、海の温度に影響するのはかなり後です。おそらく何十年も後になるでしょうね。

― やはり、毎年大雨になるものと思って備えておくべきなんですね。災害レベルになる場合、どのくらい前にわかるものなんですか?

栄作さん 実はかなり難しいんですよ。現象によっては前日くらいに分かるものもありますが、前もっての予測は気象予報士でも困難です。
朝倉で起こった『九州北部豪雨』のときは、当日でもわからなかったんですよ。あの日の福岡地方は晴れていて、ところどころで雷雨になることまでは予想できた。僕は直前まで外でロケをしていたのですが、雨が降っていないのに気象庁が記録的短時間大雨情報を出したんです。それも2度も。急いで調べたら、今後とんでもない雨量になるとわかったんです。それが実際に大雨が始まって2時間くらい。自分のキャリアの中でも一番の教訓になった災害でした。
皆さんも自分がいる場所で2時間くらいの間に普段は感じないような現象を目にしたら、すぐに避難した方がいいです。それ以降だと手遅れになる恐れがある。

― なるほど。日頃からアンテナを張っておくことが重要なんですね。そのために気を付けておくポイントはありますか?

栄作さん 一番大事なのは、自分の五感を大事にするということ。よく自分の子どもたちにも『一日一回は空を見なさい』と言うんですよ。例えば、会社から山が一つ見えるなら、その山を毎日見る。定点観測をすると、この雲がかかったら雨が降るとか、そういうサインがわかるようになってくる。都会の建物などでも一緒です。
私が言うのもなんですが、気象予報士を頼りきらない方がいいのかも知れません(笑)

そう言いながらも、毎朝の番組中に6回流される天気予報は、その時間帯のターゲット層に合わせて伝え方を変えているとか。

栄作さん テレビ放送に携わっていると、天気予報の「伝え方」って大事だなと実感したことがありました。博多駅で天気予報のテレビ中継をしていたことがあって、『降水確率90%で絶対雨です』と、放送したんです。予報した通り雨が降ってきましたが、そのテレビ放送から30分後くらいに通りがかった方に、『あんた傘いるなんて言っとらんやったろ。傘を持ってなくて濡れたよ』って言われたんです。そのとき、「絶対雨」と伝えたにもかかわらず、「かさが必要です」と言わなかったため、全然話が伝わってなかったんだ、と初めて気づきました。そこから、人形に傘を持たせたり、イラストを使ったり、記憶に残るような伝え方をずっと模索し続けています。今では、テレビ中継に間に合わない人に向けて、YouTubeやInstagramでライブ配信も始めました。

YouTubeチャンネルより
YouTubeチャンネルでは、週末は10日間の天気予報を公開。変動があれば、その都度更新されている。テレビを見ない層からの反響も多い。

栄作さん 天気予報を見るなら、出ているキャスターがどう説明しているか耳を傾けてみてください。例えば、雨が降っている状況でも『大気の状態が不安定』という言葉があるか無いか。ある場合は、雷が鳴ります。さらに"非常に"不安定だともっと荒れる。言葉を大事にしているキャスターはちゃんと使い分けているんですよ。余裕があれば見比べて、信頼できるニュースソースを探してみるのもいいかもしれません。

健康管理にも経済的にも役立つ。"長期予報"にも注目しよう

自分で空を眺めながら、天気予報で答え合わせをすると、天気を見る力がもっと身につくのかもしれません。では、得た情報は、日常のどんな場面で役立てればいいのでしょうか?佐藤家のお話を教えていただきましょう。

栄作さん 洗濯や家庭菜園の水やりなどはもちろんですが、うちでは妻が食にすごく気を使っていて、次の季節に向けての体作りの参考にしています。今だと、体を冷やす夏野菜を控えて、根菜類など体を温める食材を中心に取るとか。今年は特に冬が寒くなるから、早めにね。あとは、安いときにカイロをまとめ買いしておくとか、衣替えをすませて冬物を早めに買っておくとか。先々の気候に目を向けると経済的な選択もできますよね。

こういうときに役に立つのは、1ヶ月、3ヶ月の長期予報です。毎日見る予報とは違って、期間内の平均気温や降水量、天候の傾向を知ることができます。つまり、今年の冬は寒いかどうか、雪や雨はどのくらい降るかという参考になるのです。
長期的な予報は、海水温の分布から大気の流れを読んで判断するそう。この予報ができる人はさらに少なく、栄作さんは気象台OBの方に伝授されたんですって。記事の最後に、教えていただいたこれから3ヶ月予報を載せていますので、ぜひ参考にしてくださいね。

家事の中で一番天気予報が求められるものといえば、お洗濯ではないでしょうか。佐藤家のお洗濯テクを聞いてみたところ、なんとガス衣類乾燥機「乾太くん」のヘビーユーザーなのだとか。

栄作さん めっちゃ便利です。タオルはふわっと仕上がりますし、濡れた靴もすぐに乾きます。

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Instagramより
Instagramでは、天気に合わせたコーディネートを紹介。傘を持つ、傘をさす、など微妙な変化を付けているのもポイント

ファッション好きな栄作さんはInstagramなどで天気に合わせたコーディネートも披露しています。ご自身の会社に所属する気象予報士にも、“他と同じような発信をしない” “個性が見えるやり方で自分も視聴者も楽しめるような天気予報を”と教えているそうです。これも“伝える”重要性を実感した栄作さんならではのバトンなんですね。

栄作さん 天気予報というのは 本当にすごい情報なんですよ。国家の中枢を担う会議でも一番最初に発言するのは気象庁の職員なんですって。つまり国を動かす人たちはまず天気に注目されているんですね。もちろん、私たちの生活にも有益な情報です。なるべく多くの人に届けられるように勉強を重ねながら、人材を育てていきたいですね。

私たちも天気予報を自分向けの情報にカスタマイズできれば、暮らしがもっと便利になるはず。家事や仕事等の生活の中でどう活かせるのか、この機会にぜひ一度考えてみてはいかがでしょうか?
それでは、最後に栄作さんの3ヶ月予報をお届けします。

栄作さん 9月後半は晴れる日が多くなりますが、台風も来るので気を付けて。台風は一本通り道ができると、次からもその方向に進みがちなんですよ。例年だと9月から東日本の方に向かうのですが、今年は西に太平洋高気圧が張り出しているので東シナ海に向かってくるんです。
10月は、秋晴れが広がるようです。コロナ禍なのでお出かけはなかなか難しいと思いますが、行楽日和ではありますね。
11月は木枯らしが多いです。こんなにはっきり寒さのシグナルが出るのは珍しいくらい。小春日和は少なくて、寒気が流れやすくなるので、体調管理にも充分注意しましょう。西部ガスのファンヒーターを早めに入れて暖かくしてお過ごしください。

最後には、西部ガスのPRもバッチリ入れていただきました(笑)
ちなみに9/24には気象庁から10〜2月の長期予報が発表されます。9/27のKBC「アサデス」で栄作さんの秋冬予想を放送するそうですよ。ぜひ冬休みの参考にしてみては?

佐藤栄作

佐藤栄作

埼玉県出身。日産自動車のエンジニアを経て、気象予報士の資格を取得。1996年に気象情報会社ウェザーニューズに入社。1999年にはKBCの朝のニュース番組に出演。現在は「アサデス。KBC」にて名物お天気キャスターとして活動中。2011年に「株式会社 風見屋」を設立。2012年には気象庁の「予報業務許可」を取り、熊本や鹿児島などに気象予報士を派遣している。

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