2021.12.28
「カーボンニュートラル2050」達成のために ガス会社が挑戦する"再生可能エネルギー事業"を探る
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする「カーボンニュートラル(※)」を目指すことを宣言。
その発表を受けてさまざまな業界で具体策が検討される中、西部ガスグループはカーボンニュートラル実現に向けた方針「カーボンニュートラル2050」を表明しました。その中で柱とされているのが、「天然ガスへのシフト」、「ガスの脱炭素化」、そして「電源の脱炭素化」の三つです。
前者2つについては、ガス会社として避けては通れない課題です。 けれども、「電源の脱炭素化」、つまり再生可能エネルギーによる電力供給となると、どんな部署でどのような取り組みがなされているのか。ちょっと予測がつきませんよね? そこで、今回は西部ガスグループが挑戦する「再生可能エネルギー事業」について開発と運営を担うお二人にお話を聞きました。
※温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること
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西部ガスグループ「カーボンニュートラル2050」
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厳しい目標数値を達成するカギは"エネルギーの個人生産"と"大規模発電事業"にあり
今回お伺いしたのが、西部ガス株式会社電力事業企画部の髙橋智亮さんとエネ・シード株式会社の光澤芳昭さん。電力事業企画部が発電所の調査や企画開発、エネ・シードが発電所の維持管理を担当しているそうです。
― 西部ガスグループでは、現在「電源の脱炭素化」のための目標値として、2030年までに再生可能エネルギーの電源取扱量を20万kWまで増やすことを掲げています。この数値は、現状の約4倍。かなり厳しい数字のようですが、達成するためにどのような取り組みをされているのでしょうか?
高橋さん すでにあるもので言えば、自然エネルギーである太陽光と風力発電です。まずは、西部ガスグループ所有の遊休地を活用したメガソーラー発電を実施しています。この維持管理をしているのがエネ・シードですね。
現在は全ての遊休地を使い切った状況ですので、拡大するには新たな土地が必要です。そこで、外部のディベロッパーや施工会社などから物件情報を収集しているんです。それも、土地だけではなく、メガソーラーをすでに設置している発電所や案件ごと取得するという方法も考えながら。
― なるほど。西部ガスグループでは、東日本大震災の翌年からエネ・シードを設立して太陽光発電をスタートされていますよね。再生可能エネルギーへの下地はすでにできていたようですが、この他にも西部ガスグループだからこそ有利となる点はあるのでしょうか?
高橋さん 今までガス会社としてお客さまと築いてきた関係性、この強みを生かして暮らしに寄り添った提案ができるのではないかと考えているんです。再生可能エネルギーを利用いただくだけではなく、お客さまの自宅やオフィスで発電するとか。その電力をお客さまに自家消費していただくPPA事業(電力販売契約)もその一つですね。
― PPAとは、ざっくりと言えば、お客さまの家の屋根などにソーラーパネルを無償で設置して、お客さま自身で太陽光の電気を消費していただく、もしくは余剰電力を売電する仕組みです。お客さまは発生した電力を使うことでカーボンニュートラルに貢献できるし、西部ガスはエネルギーを供給し続けることでお客さまへ貢献できる、双方にお得なシステムですよね。
高橋さん お客さまにとってはソーラーパネル設置の初期費用がネックになるので、ハウスメーカーと協力して新築の戸建に取り付けてもらうプランが営業部門で企画されました。設置にはいろいろな条件があるのですが、こうした足元からの再生可能エネルギーの普及も非常に大事だと思っています。
※西部ガスグループのPPA事業の一例。すでに東宝ホームとの提携がスタートしています。
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― 西部ガスグループでは、ガスと電気をセットにしたプランも登場していますよね。この電気は現状の再生可能エネルギーでまかなえるのでしょうか?
高橋さん ガス契約者数を全て自社の再生エネルギーでカバーするには、まだまだ難しいですね。自社で運営する発電所を増やしつつ、電力会社など外部の電源をバランス良く組み合わせながら調達していく方法が現実的です。
― ユーザーの皆さんだけではなく、企業間の連携も重要なんですね。
高橋さん 太陽光や風力発電以外の再生可能エネルギー開発も、企業や自治体などの協力が不可欠なんです。例えば、海上の風力を活用する『洋上風力発電』は、陸上に比べて大量の電力を生み出せますが、設置や運営には莫大な費用がかかります。一社では難しくても、企業間で手を取り合えば実現できますよね。
カーボンニュートラル目標値達成のためには、一般家庭でのエネルギー生産を啓蒙する一方、新たな電源の開発も進めることが求められています。
さらに、取得した発電所の運営継続も重要な課題です。
ここからは、ちょっとバトンタッチして、エネ・シードの光澤さんに稼働中のメガソーラーについてご説明いただきましょう。
毎日触れる自然現象がエネルギーになる 発電所の維持管理を通じて感じる意義とは?
百聞は一見にしかず、ということで早良区にある「エネ・シード早良太陽光発電所」へやってきました。遠く能古島や福岡タワーが一望できる高台には、およそ3,000枚ものソーラーパネルが並んでいます。
こちらはグループの遊休地ではなく、もともと他社が開発した発電所だったそうです。エネ・シードでは、こうした物件を含めて全国に14ヶ所ある再生可能エネルギー発電所の維持管理を担当しています。
光澤さん達は毎日監視システムで発電量などをチェックしながら、異常な数値が記録されるとすぐに状況を確認し、場合によっては現場に向かわねばなりません。
ちなみに、ソーラーパネルの一番の天敵は何だと思いますか?
光澤さんによると、身近なあの動物なんですって。
光澤さん 自然災害だとやはり台風や雷ですね。あと、パネルが割れる原因として多いのはカラスです。飛んできて石を落とすんですよ。パネルは一枚が割れるとそれが繋がるひとかたまりの発電エリアが止まってしまうことがあるのですごく困っています。しかも山奥だけではなく、臨海の工場跡地のように開けた土地でもカラスが巣を作るんですね。鷹匠に追ってもらうなど対策もやってみたのですが防ぐのは難しいですね。
パネルがある場所はたいてい車や機械が入れないので、交換するには人力で1枚30kgほどのパネルを運ぶのだとか。他にも、周辺の雑草が遮ってしまうと発電量が減るので、定期的な除草も必要です。
光澤さん トラブルは結構多いので、電気に強くて臨機応変に動ける人材が必要なんです。だから、当社では電気主任技術者などの資格を持つ職員を数名抱えています。
高橋さん FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の認定はあるけれど、こうした運用ノウハウを持たない法人のお客さまも多いので代行もしているんです。メガソーラー事業の引き継ぎを持ち込まれることも多いですね。私たちも発電所を所有する時には、維持管理の面で光澤さんに意見を聞いているんですよ。ただ単に容量を増やしても、管理できないと意味がないですから。
光澤さん そうなんです。太陽光発電って、光さえ当たっていれば勝手に電気を作ってくれるというイメージをお持ちかもしれないんですけど、実際は定期的な点検が欠かせない。発電所がその規模に見合った働きをしてくれるように管理するのが一番大きな使命ですね。
― 目標に着実に近づくには、開発と運用は必ずセットで考えなければならない。だからこそ、光澤さんと高橋さんはリレーションを大切にしています。
そんな二人は、再生可能エネルギー事業について、どのような意義を感じているのでしょうか?
光澤さん 風が強く吹く日って、普通はあんまり嬉しい状況じゃないですよね。でも、実は立派なエネルギーになるんですよ。大荒れの天気だと風車がよく回って電気をたくさん作ってくれる。太陽光発電もそうですが、今までただ流れていたエネルギーを電気に変えている。そう思うとやりがいがあります。
高橋さん 私も、街中に太陽光発電フィルムが張り巡らされて、ビルの壁面や道路で発電するような時代が来るのではと思っています。それに、お客さま自身が電力を生産することも当たり前になるはず。そんな時に、西部ガスグループがどうお手伝いができるか。ガスを供給するだけではなく、再生可能エネルギーの活用をサポートする役割もサービスの要になってくるであろうと感じています。そうなると、今まで地場企業としてお客さまと築いた関係性が、その基盤になってくれるのではないでしょうか。だからこそ、お客さまに対応する営業部門やエネルギー生産部門も含めて、全体で取り組んでいくべきなんです。
高橋さんと光澤さんのお話だけでも、カーボンニュートラルには多岐にわたる動きが必要とされているか分かります。そして、誰か一人、どこか一社の努力だけでは実現できないということも。地域と個人が一丸となって取り組むときに、先導役にも潤滑油にもなってくれるのが、西部ガスグループのような存在なのではないでしょうか。
今後も、私たち一人ひとりにできることを考えながら、「カーボンニュートラル2050」の動きに注目してみたいと思います。
エネ・シード株式会社
2012年に設立以来、太陽光と風力による発電、電気の供給・販売事業を展開。
グループとしては13カ所の太陽光発電所(41.9MW)と、1カ所の風力発電所(4.0MW)を運用し、一年間で約5,700万kWh(一般家庭の約15,800世帯分)の発電量を記録(2021年3月末現在)。現在は主にFIT制度を活用して九州電力送配電などへ電力の販売を行う。
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