気候変動に対する移行計画

本移行計画は、当社売上高の約70%を占めるガスエネルギー及び電気その他エネルギー事業に関してTCFDの枠組みに沿った情報開示を行っております。不動産事業などその他の事業に関しては、今後当社の中期経営計画を見直すタイミングで各事業セグメントの重要性を評価し、移行計画を含むTCFDの枠組みに沿った情報開示の対象に含める予定です。

ガバナンス

本移行計画の実行に責任を有するのは、気候関連事項における自社の経営責任を負っている社長執行役員です。今後は、カーボンニュートラル推進部が中心となって移行計画の実施を推進し、その進捗状況は定期的に(原則年1回)サステナビリティ委員会にて報告・審議され、最終的には経営会議を経て取締役会に報告されることで、取締役会がその実行を監督できるよう体制を整えています。本移行計画はその進捗状況をふまえて定期的に(原則、中期経営計画の策定時点)見直しが行われます。本年度は本移行計画策定の初年度であるため、具体的な見直しは今後実施される予定です。

本移行計画の目標や実績については、当社ホームページを通じて開示します。当社は、気候関連事項に関する昨今の重要性の高まりを受け、排出量計算の正確性を担保するために第三者保証の導入について検討しております。またインセンティブについては、グループ従業員を対象にした社内表彰制度に「サステナビリティ賞」を設けており、本移行計画で掲げられた目標への貢献を含むサステナビリティに対する取り組みへの意欲醸成を図っております。

リスク管理

移行リスク

低炭素経済への移行により当社グループが直面するリスクを以下と特定しました。

移行リスク(市場)

お客さまの電化意識の進展により、家庭用では新築物件のガス供給需要が低下、既存物件ではオール電化への転換、業務用では、設備の徹底した電化を想定した。当社グループは電気とガスをセットで販売しているが、ガス需要の低下によりセット販売の減少やガス機器の販売低迷による売上減少が想定される。

天然ガスは他の化石燃料と比べ低炭素なエネルギーであるため、世界的な需要増が生じている。世界的なLNGの需給ひっ迫によりLNGが調達できないリスクや購入価格の大幅な上昇による調達コストの著しい増加が想定される。

移行計画の課題と不確実性

天然ガスシフト

  • 海外情勢の影響による天然ガス価格の高騰やそれに伴う天然ガス需要減リスク
  • 低炭素社会への移行状況に応じた需要増加・減少に対応する天然ガスの安定的な調達
  • 天然ガスの需要増加に伴う製造・供給インフラ設備の強化

ガスの脱炭素化

  • ボランタリークレジットに対する環境価値等への評価
  • e-methaneに対する政策動向(経済的支援、環境価値等)
  • e-methane製造における原料(CO2、水素、再エネ)の確保および製造設備の強化

電源の脱炭素化

  • ひびき発電所での水素混焼に向けた技術の確立
  • 再生可能エネルギー電源開発における制度的な支援
  • 新たな電源種の開発、発電技術の導入

戦略

当社グループは、日本ガス協会に参画しており、当協会の「カーボンニュートラルチャレンジ2050」の動向をふまえ、2021年9月に「西部ガスグループカーボンニュートラル2050」を策定し、2050年カーボンニュートラルの実現に挑戦することを発表しました。当社が掲げている「2050年カーボンニュートラルの実現」という目標は、パリ協定の目的やIPCCの報告書にある「今世紀後半のカーボンニュートラルを実現」するという目標と整合しており、また日本政府の2050年までにカーボンニュートラルを目指すという宣言とも整合しています。「西部ガスグループカーボンニュートラル2050」において、2030年度末までの移行期間における当社の主な目標は、CO2削減貢献量を増加させること(2030年度末までにCO2削減貢献量150万トン(2020年度比))です。

カーボンニュートラルを達成することは、ガスエネルギー事業をはじめとした総合エネルギー企業を目指す当社においては経営上の非常に重要な課題であると考えております。当社が提供している都市ガスの原料である天然ガスは化石燃料の中でもCO2排出量の少ないクリーンなエネルギーであり、移行期において天然ガスシフトを強力に推進していくことで、サプライチェーン全体におけるCO2の大幅な削減に貢献するものと考えております。
また、当社グループがカーボン・オフセットLNGやe-methane(合成メタン)の提供等を通してカーボンニュートラルに挑戦し、これを達成していくことはお客さまに対してお客さま先におけるCO2削減に貢献するという大きな価値を提供し得るということであり、カーボンニュートラルという大きな潮流の中において当社グループにとって非常に大きな事業機会となり得ると認識しております。

ライフサイクルアセスメントによるCO2排出量

ライフサイクルアセスメントによるCO2排出量

当社グループは、カーボンニュートラルを実現するための4つの柱として、天然ガスシフト・ガスの脱炭素化・電源の脱炭素化・事業活動を策定しました。

当社グループの主力事業であるガスエネルギー事業においては、低炭素経済への移行が進むことにより、当社グループのお客さまから低炭素・脱炭素エネルギーの供給が求められる可能性が高まることが想定されます。2030年までの移行期間においては、他の燃料(石油・石炭)と比べ低炭素である天然ガスの需要や再生可能エネルギーの需要が増加することが考えられます。また、脱炭素技術への投資も積極的に行われることが考えられます。

こうした想定に基づき、当社グループは、当社の事業の中核を成し、売上の70%を占めるエネルギー供給に関する取組である「天然ガスシフト」と「電源の脱炭素化」を優先的に取り組みます。また、それらに取組みつつ、供給する「ガスの脱炭素化」に取組むことでカーボンニュートラルの実現を目指します。加えて、当社グループの事業活動からのGHG排出量の削減への取組みについても着実に推進します。

4つの柱とそれぞれのアクションプランの概要

    Action1 Action2 Action3
天然ガスシフト 概要 石油・石炭から天然ガスへの燃料転換 エネファーム、CGS、エコジョーズ、太陽光発電、蓄電池といった省エネ効率機器の拡大 LNG出荷事業、海外エネルギー事業、バンカリング事業といった海外事業の推進
アクションプラン 産業用の最終エネルギー消費量の約6割を占める熱需要をターゲットに、環境性に優れた天然ガスへの燃料転換を推進する トランジション期については、引き続き、省エネ高効率のガス機器の利用促進を図り、足元から着実なCO2排出量の削減を図る。また、省エネ・省CO2促進およびレジリエンス強化の観点から、分散型エネルギー(エネファーム、CGS、太陽光発電、蓄電池)の販売促進を図る 中国・東アジア地域へのコンテナ出荷により、LNG販売機会の拡大を図る。海外エネルギー出資先であるベトナムPVGasD社(議決権所有割合21%)では天然ガスの普及促進策により販売拡大を図る。また、米国Birdsboro発電所(議決権所有割合33.3%)では安定稼働を継続する。バンカリング船の建設や入出港に向けた関係者協議等の準備を進め、2024年3月より事業開始予定
ガスの脱炭素化 概要 カーボン・オフセットLNG/LPGの導入 小規模実証試験の実施を行った上でのe-methaneの導入
アクションプラン 2022年度より西部ガスの都市ガスをご利用のお客さまへ販売開始。2023年度以降は、販売対象を拡大し更なる販売拡大を図る。また、クレジット償却に対する第三者機関の検証を行い、透明性・信頼度の向上へ取り組む 国内での実証試験に加え、海外サプライチェーン調査や革新技術の調査を含め、業界目標に向けた検討を進める。まずは、補助事業等を活用し、ひびきLNG基地での小規模メタネーション実証を実施し、e-methane導入に向けた準備を行う
電源の脱炭素化 概要 新たな再エネ可能エネルギーの開発・調達 非化石証書の購入による再生可能エネルギーの普及 天然ガスを使用して発電、将来的には水素活用を見据えたひびき火力発電の稼働
アクションプラン 現在運転中の再エネ電源に加えて、新たな電源の開発に注力し2030年時で20万kWの再エネ電源取扱量を目指す。また、電源開発に加え、他社が運営する再エネ電源からの電力の調達についても、情報収集や受入体制の整備など準備を進めていく 非FIT電源の開発や高度化法義務達成市場からの非化石証書の調達により、西部ガス電気の販売量の50%を非化石電源化する。西部ガス電気の料金メニューに再エネプラン(CO2ゼロ)を新たに設け、西部ガス電気をご利用のお客さまへ再エネ電気を提供する 火力発電のなかでもCO2排出量が最も少ない「天然ガス」を採用。さらに最新鋭の発電方式(コンバインドサイクル発電)を採用し、トランジション期における低炭素化を図る。将来の電源の脱炭素化につながる「水素混焼」に向けた検討を継続実施する
事業活動 概要 施設で使用する電気・ガスの脱炭素化、社用車のEV化およびペーパーレス化ほか、グループ施設低・脱炭素化 森林保全・働き方改革ほか
アクションプラン 西部ガスグループの施設で使用するエネルギーのCO2排出量を実質ゼロとする。西部ガスグループが利用する社用車の台数を削減したうえで、低炭素車両(EV・PHV・FCV)を新たに導入する。ペーパレス化の更なる推進に向け、デジタルツールの環境整備や事務所内の印刷機(複合機、プリンター)の削減を行う。また、事業活動上必要な資材や消耗品に関しては、グリーン商材を積極採用する。 植樹活動「ヒナタの森プロジェクト」を西部ガスグループの事業エリアで展開する。さらに、自治体やお客さまが保有する森林の有効活用(J-クレジットの申請支援、クレジット取得、間伐材の活用)など、新たなビジネスモデルの検討を行う。働き方改革による従業員の環境意識の醸成ならびに省エネの推進を目的に、「オフィスカジュアル」 「在館制限」「テレワーク活用によるオフィスの効率化」に関する検討を開始する。デジタル技術活用による業務効率化を実施し、省エネを推進する

シナリオ分析

当社グループは、本移行計画の達成可能性を検証するにあたり、以下の2つのシナリオを選択しました。

気候変動政策が強化されているシナリオ:WEO NZE 2050シナリオ

世界が低炭素経済に移行するという傾向が最も顕著であるシナリオとして、国際エネルギー機関(IEA)が策定したWEO NZE 2050シナリオを選択しました。本シナリオは、2050年にネットゼロを達成するために各国が気候変動政策を積極的に導入・強化することを念頭においたシナリオです。

気候変動政策が停滞しているシナリオ: WEO STEPSシナリオ

上記シナリオと対極にある世界の低炭素経済への移行が停滞しているシナリオとして、WEO STEPSシナリオを選択しました。本シナリオは、上記と対極にあるシナリオで、各国が気候変動政策を積極的に導入・強化することはなく、停滞していることを想定したシナリオです。

シナリオ分析結果

WEO NZE 2050シナリオ

WEO NZE 2050シナリオにおいては、2050年ネットゼロに向けて低炭素経済への移行が急速に加速していることを想定しています。2030年までの移行期間においては、石油や石炭から天然ガスへの燃料転換が加速していると考えられます。こうした状況は、当社グループが推進する天然ガスシフトが進む状況であるものの、天然ガスの需要増に対し十分な供給量が確保できない可能性があり、燃料転換需要に応じるための十分な天然ガスの確保ができない可能性があります。

また、供給するガス自体の脱炭素化というニーズも高まることが想定されます。e-methane導入への機運が高まり、e-methane製造に必要な設備やサプライチェーンが積極的に整備されると考えます。一方で、e-methane導入までは、カーボン・オフセットLNG/LPGの需要が高まることが想定されますが、上記と同様、十分なカーボン・オフセットLNG/LPGの調達ができない可能性があります。

電源の脱炭素化についても市場からの要請が高まり、政府による再生可能エネルギー事業支援が活発になるという反面、再生可能エネルギー電源の開発候補地が限られているため、開発が進まず、再エネ電源取扱量20万kWという目標数値が達成できない可能性があります。また、移行期間における低炭素発電所として最新鋭の発電方式(コンバインドサイクル発電)を採用したひびき発電所の稼働への要請は高まり2026年から順調に運転が開始されることが見込まれますが、発電所稼働にあたって必要な天然ガスの安定確保という課題があります。

WEO STEPSシナリオ

WEO STEPSシナリオにおいては、低炭素経済への移行が停滞していることが想定されます。2030年までの移行期間における天然ガスへの燃料転換は進んでいるもののその進み具合は鈍化していると考えられます。この状況下においては、石炭から天然ガスへの燃料転換までは至っていないものの、石油からの燃料転換は進んでいると見込んでおり、当社グループが掲げている目標値は達成できると考えています。

ガスの脱炭素化というニーズも鈍化していると想定されますが、2050年ネットゼロの目標達成に向けて、政府やガス業界における取り組みは継続して実施されると見込んでおり、当社グループにおけるe-methane導入に向けた取り組みは予定通り実施されると考えます。カーボン・オフセットLNG/LPGの需要の伸びは鈍化すると考えられることから、目標の達成ができない可能性があります。

電源の脱炭素化に関しては、再生可能エネルギー電源開発の競争は緩やかである一方、政府による再生可能エネルギー事業支援は現状発表されている程度に留まると考えられます。再生可能エネルギーの開発・調達は、現状の政府支援を前提として計画しているため、例え今以上の支援がなかったとしても目標に掲げている電源取扱量は達成可能と見込んでいます。また、ひびき発電所の稼働要請は現状と変わらず、稼働にあたっての必要となる天然ガス確保への懸念もほとんどないと想定されるため、計画通り稼働されると見込んでいます。

事業活動における取組は、当社グループ事業活動から排出するCO2削減に向けた取組みであるため、いずれのシナリオを想定した場合であっても、その影響を受けることなく計画通り実行可能であると考えます。

目標の達成可能性

WEO NZE 2050シナリオを想定した場合、天然ガスの安定供給という課題へ適切に対応する(複数の調達先と契約を行う・調達先の情報収集を積極的に行いながら調達量のバランスの見直し等を定期的に実施する)ことで、目標を上回るCO2削減貢献量を達成する可能性が高いと見込んでいます。また、ガスのカーボンニュートラル化率に関しても旺盛な需要に支えられ、目標を上回るガスのカーボンニュートラル化率を達成する可能性が高いと見込んでいます。再生可能エネルギーの開発・調達に関しては、開発競争の激化という課題はあるものの、洋上風力発電など新たな電源種の開発や非FITによる開発、また他社が運営する再エネ電源からの調達を上手く組み合わせいくことで、目標としている再エネ電源取扱量を達成可能と考えています。
一方でWEO STEPSシナリオを想定した場合、アクションプランを見直すことで目標値(CO2排出削減貢献量・再エネ電源取扱量・ガスのカーボンニュートラル化率)は達成できる見込みです。

指標と目標

指標

本移行計画における当社の目標・測定基準は以下の通りです。
なお、2030年度目標達成に向けた中間目標は、取り組みの進捗状況をみながら、都度、中期経営計画にて開示してまいります。

  • 2024年度中間目標は、中期経営計画「Next2024」にて開示しております。

目標1

目標 KPI 2024年度 2030年度
CO2排出削減貢献量 当社グループ及びお客さま先のGHG削減量 50万トン 150万トン

目標2

目標 KPI 2024年度 2030年度
再エネ電源取扱量 再エネ電源取扱量(kW) 7.5万kW 20万kW

目標3

目標 KPI 2024年度 2030年度
ガスのカーボンニュートラル化率 供給するガス全体に占めるカーボンニュートラル化したガスの割合 1.0% 5.0%

以上